Lust | ナノ

明け方まで数時間。突然やって来た来訪者は合鍵を使って勝手に室内へと侵入すると、3時間後に起こしてくれと寝惚け眼のなまえに告げてベッドへと入り込んだ。
まるで我が物顔でベッドを占領すると、その突然の来訪者は抱き枕を抱くかのようになまえの身体を抱き締めながら、ものの10秒程度で直ぐに寝息を立て始める。
どうしたものかと思案するなまえも、まだ4時を回ったばかりの薄暗い室内でぬくぬくとした布団の中に横たわっていては、考えるよりも先に自然と睡魔に襲われるのも致し方なかった。
されるがままの状態で静かに瞳を閉ざすと、なまえも谷村同様、再び眠りに就いた。
それから2時間後になまえの枕元で振動する携帯バイブの振動で目が覚めると、なまえは谷村の腕をそっと退かして携帯のアラームをオフにした。
余程疲れているのか、すやすやと眠る谷村は多少の物音では目覚める気配を見せることは無かった。


「…綺麗な寝顔」


ポツリと呟いた言葉は心からの本心で、伏せていても長い睫毛が谷村の寝顔を一層幼く見せる。
少しだけ長い前髪にちょん、と指先で触れてみても、深い眠りに落ちた谷村は全く身じろぐことすらなかった。
お互いに今日が休みであればもっとまどろんだ時間を楽しめるのだが、生憎そうもいかない。
そんな歯がゆさを吹っ切るようにベッドから抜け出すと、なまえはなるべく物音を立てないように気をつけながら身支度を始めた。
全ての支度を整え、朝食の準備も出来上がってから再びなまえがベッドに沈む谷村の傍へと向かうと、寝返りを打ったのか先ほどまでとは反対向きで背を向けた状態で眠る後姿がそこに縮こまっていた。
あまり寝相が良くないのか、掛け布団がぐちゃぐちゃになっているのがなまえには可愛らしくてならなかった。


「谷村さん、もうすぐ7時になりますよ」
「…ん、」


小さな呻き声が上がっても、谷村が起きる気配はまだ見られず。
本当はもう少し眠らせてあげたい気持ちはあったものの、なまえは申し訳なさを押し殺してそっと掛け布団を捲り上げると谷村の肩を軽く揺さぶった。


「谷村さん、もう時間です。起きてください」
「ん…、っ」


ベッドサイドに膝を付いて谷村の身体を揺さぶっていたなまえは、くるりと寝返りを打った谷村に突然抱き締められた。
寝惚けているのか、強い力でベッドに引きずり込もうとする谷村に驚きながらも懸命に対抗すると、首筋に絡みついた谷村の両腕はなまえを離すまいと一層力を込め出した。


「っ、谷村さん…、苦し…っ」
「も…少し、だけ」
「でも…、ごはん冷めちゃいますよ?」
「…ん」


ゆっくりと首筋に回された谷村の腕の力が緩められたかと思うと、未だ眠たそうな瞳がぼんやりとなまえを見つめていた。
少しだけむくれて見えるその表情が子供っぽさを強調していて、なまえは口元に浮かんだ笑みを隠し切れなかった。


「…おはよ」
「おはようございます、谷村さん」


するりと後頭部を引き寄せる谷村の手に導かれるままに、なまえの唇が寝起きの谷村の少しだけ乾いた唇の上へと重なった。
触れただけで離れてしまうと、後頭部に残る谷村の指先が愛しげになまえの髪を梳いてゆく。
たった数時間の仮眠のためにわざわざ自分の元を訪れてくれた谷村に対し、なまえは改めて幸せな気持ちを噛み締めていた。


「なまえに起こされるの、いいかもな」
「え…?」
「…仮眠室よりお前の隣の方が良く眠れるし、目覚めもイイってこと」


また頼むよ。
そう言ってゆっくりと伸びをしながら起き上がる谷村の横顔は、とても晴れやかなものだった。
急いでメシ食わないとな、と告げる言葉を耳に、なまえは堪らず谷村の背中にぎゅうっと抱きつかずには居られなかった。
ある朝、噛み締めた幸せ

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