Lust | ナノ

ベッドにごろりと横になった谷村に導かれたなまえは、彼の傍らにちょこんと居住まいを正して座っていた。
何かを企んでいるような好奇に満ちた瞳に見つめられながら、なまえは微かに込み上げた嫌な予感を打ち消せずに居た。


「なまえ、」
「っ、あ…」


腕を引っぱられると、なまえの身体は易々と谷村の胸元に引き寄せられた。
だらしなく緩んだネクタイの結び目に頬が重なり、それと同時に谷村のシャツからは仄かに彼の香りと僅かな煙草の香りが沸き立った。
鼻腔を擽るその香りだけで心臓が跳ねるように脈を打ち、なまえはそれを隠すようにそっと谷村のシャツを掴んだ。


「たまには俺にも付けてみてよ、キスマーク」
「え…っ、」


擦り寄った谷村の胸元から慌てて顔を上げると、なまえの髪を指先で堪能するかのように谷村が優しく頭を撫でる。
口元に浮かべられている微かな笑みに、谷村が冗談でキスマークを強請ったのではないと言う事が感覚的になまえにも感じられた。


「ほら、ネクタイ緩めて」
「っ…はい」


谷村の身体の両脇に手をつくと、なまえは一度彼の上に倒れこんだ自分の身体を起き上がらせた。
無防備にベッドに沈む谷村の身体にそっと手を伸ばすと、なまえは最初から緩んでいたネクタイの結び目をするすると解きに掛かる。
完全に結び目が解けたネクタイは谷村の首に残したままで指先をシャツのボタンへと伸ばすものの、自ら彼の第3釦を外すには少しばかり勇気が必要だった。


「固まってないで、外して?」
「谷…、っ」
「ほら…出来るだろ?」


なまえの手に重ねられた谷村の指先が、シャツの第3釦の上へとなまえの指先を導く。
一度小さく息を吐くと、なまえの指は覚悟を決めて二つ、三つと谷村の服を乱し始めた。
釦を外した其処には鎖骨が綺麗に浮き出していて、なまえの視線が自然と谷村の首筋へと注がれる。
再び指先が谷村によって導かれたかと思うと、今度は今し方なまえが見つめていた鎖骨の上へと指先が触れた。


「ココに付けて?」
「っ、でも…」
「いいから」


ぐっと後頭部に力が加えられ、なまえの唇が強制的に谷村の鎖骨の上へと押し当てられる。
瞳を閉ざし、啄ばむようにそっと谷村の肌に吸い付いてみるものの、ちっとも痕が残る気配が感じられなかった。


「下手くそ」
「だ、って…」
「こうするんだよ」


なまえの頭を押さえつけられたまま、谷村が首を僅かに持ち上げたかと思うと、ちょうどなまえの首の付け根辺りに谷村の唇が触れる。
それと同時に鈍い痛みが走りなまえが思わず身体を竦めると、ゆっくりと唇を離した谷村が小さく笑う気配が感じられた。


「これくらい強くしないと付かないよ」
「も…、噛まないでください」
「だから、これくらい俺にも強くしてみてって事」


サラサラと指先に髪を絡ませたまま笑いかける谷村に、ぎゅっとなまえの胸が締め付けられる。
正に今、刻まれたばかりの証と同じものを谷村にも付けたい、と自らの中に湧き出した欲になまえは素直に従うのだった。
証を刻む儀式

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