Lust | ナノ

どこかに出かけようかと約束していた今日、外は大雨だった。
出かけようという予定だけでどこに行くかまでは考えて居なかったためか、外出が出来ないと判った今もなまえの気持ちは平素と変わらず穏やかなものであった。
渡瀬の腕の中で目覚めて直ぐ、耳に届いた雨の降る音に少しだけ安心感にも似た気持ちが込み上げたのはつい1時間ほど前のこと。


「こないに降っとると、出掛ける気ィにはなれへんなぁ」
「…そうですね」


愚痴るように呟いた渡瀬の声を耳に、なまえは口元を綻ばせた。広いベッドに転がったまま、目覚めてからずっとこうしてなまえは渡瀬の隣でだらだらごろごろと布団に包まっているのである。
平素はしっかりと整えられている渡瀬の髪についた寝癖や額に掛かる前髪が、今日は彼が休みである事を知らしめてくれているかのようでなまえは嬉しかった。


「なんや、出かけられへんちゅうのに随分嬉しそうやないかい」
「だって…嬉しいですもん」


つん、と小突くようになまえの額に触れた渡瀬の指。そんな他愛もないやり取りにすら、なまえは幸せを噛み締める。
カーテンの隙間から漏れる外の光と雨音に包まれた部屋は、なまえにとって酷く居心地の良いものだった。


「せやけどお前、どこぞに出掛けたい言うてたんちゃうか?」
「いいんです、どうしても行きたかったわけじゃないですし」


にこりと笑うなまえを目に、渡瀬の表情は腑に落ちないといった不思議そうなものへと変わる。
邪魔な前髪を掻きあげれば、なまえは一層嬉しそうに口元を緩ませた。


「こんな風にのんびりしながら渡瀬さんと一緒に居られるの、やっぱり嬉しいです」
「そうか?」
「はい。それにこうやって隣に居ると、凄く近くで渡瀬さんを感じていられますし」


だから、このままずっと二人きりでベッドの上でも構いません。
なまえの言葉に、渡瀬の瞳が微かに見開かれる。驚いたような困惑したような照れくさいような、なんとも言えない感情が渡瀬の中に渦巻く。
だが、それを上回るほどの幸福感が胸を満たし、渡瀬は自然と伸ばした指先でなまえの頬に触れていた。


「そないに、大人を揶うもんやないで?」
「からかってなんて居ませんよ」
「無自覚なんが一番タチ悪いわ…」


頬を撫で、首筋を通り過ぎる指先の動きになまえがびくりと身体を竦ませると、渡瀬の目には微かに色欲が宿った。
昨夜の余韻が呼び起こされたのか、太腿同士がもじもじと擦り合わさるように動いてしまうのが止められない。
先ほどまではなんとも感じていなかった渡瀬の裸の上半身にすら、なまえは欲情させられてしまう。


「エロい目ェして…昨日あんだけした言うのに、まだ欲しいんやろ」
「そん、な…」


くつくつと喉の奥で笑いながら、渡瀬が距離を詰める。ゆっくりと重なった唇に、なまえの身体がじわりと熱を孕んだ。
そっと離れてゆく渡瀬に視線を預けてみれば、なまえの目には意地悪く口角を上げる彼の表情が映る。
その意地悪な表情のままで再び迫った渡瀬はなまえの耳を甘噛みすると、低く子宮に響くような声で彼女に囁きかけた。


「今日は…雨が止むまで、お前の身体堪能させてもらおか」

雨の檻

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