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携帯電話に新着メールが届いた事には気付いていたが、その時のなまえはそれどころではなかった。
幾ら時間があっても足りないくらいの多忙を極めた業務をこなす事で精一杯だったのだ。
だからメールが届いてから数時間後の22時を大きく回った頃にようやくなまえが携帯電話を手に取った時、メールの相手が峯であった事に少なからずショックを受けた。


「…早くメール見ておけば良かったなぁ」


用件のみのシンプルな文面は、なまえの仕事の終了時間を問うものだった。
今さら返事をしても、と思いながらも、つい指は峯へのメールの返信を打ち始めてしまう。
これから帰ります、とだけ返事を送って帰り支度を始めても、もうなまえの携帯電話が峯からのメールを告げる事はなかった。
気持ちを切り替えようとふう…と一息ついて足早になまえが職場を後にすると、暗くなった外の世界に見覚えのあるシルエットが浮かんでいた。


「っ、え…?峯、さん?」
「嗚呼…随分遅かったですね」


くるりと振り返ったスーツ姿の峯の傍らには、峯の愛車が停められていた。
慌てて駆け寄るなまえを余所に、峯の表情は相変わらずの仏頂面のまま、それでもほんの僅かに目元に優しげな色が浮かんでいた。


「食事は?まだでしょう?」
「あ、はい…。あの、」
「何が食べたいですか?何でもおっしゃってください」
「あの…峯さん、その…」


どうしてここに?
そう問いかけるより先に掴まれた手によって、まるでエスコートされるように車の助手席まで導かれる。
半ば押し込まれるように峯の愛車に座らされると、丁寧な手つきで助手席のドアが閉ざされた。
峯が運転席に座ってエンジンを掛けたところでようやく視線が重なったかと思うと、その勢いでなまえの唇は峯のそれによって塞がれた。


「俺から逢いに来てはいけませんか?」
「そんな…嬉しかったです」
「でしたら次は、驚くよりも先に嬉しそうな顔を見せてください」


するりと後頭部に回された手によって、再びなまえの身体が峯の傍へと引き寄せられる。
啄ばむような優しい口付けが数回落とされたかと思うと、くすりと笑う峯の吐息がなまえの耳を擽った。


「随分疲れているようだな」
「え…?」
「隈が出来ている…」


可愛い貴女の顔には似合いませんよ。
どこか揶うような口調で告げる峯に対してなまえが微かに頬を染めると、再び峯から口付けが降り注ぐ。
今日に限って執拗なほどのキスの数になまえが困惑していると、そんななまえの頭を抱き寄せながら峯の囁く声が鼓膜を揺さぶった。


「暫くは俺もお預けを食らうわけですから、」


キスくらい、好きなだけしても構わないでしょう?
キスの雨を降らせて

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