Lust | ナノ

眠る龍司の傍ににじり寄ると、なまえは息を潜めて顔を近づけた。
整髪料の取れた黄金色の髪はいつもとは違ってサラサラとなまえの指を滑り、意外と髪質が柔らかい事が良く判る。
眠っている時の表情にも威厳があるのはどうやら気のせいではないらしく、なまえの目に映る寝顔は少しだけ気難しそうな顔をしていた。


「龍司さん」


ソファで寝てると、風邪引いちゃいますよ。
眠る龍司の耳元で囁くなまえの小さな声は、決して龍司を起こそうという気が見られない。
ソファの下のラグにちょこんと座って優しく髪を撫でる手も、龍司を起こさないようにと気遣っているような手つきだった。
龍司の大きな身体には丈の足らないブランケットをそっと掛けてやると、なまえは龍司の顔の脇のソファの端っこへと顎を乗せた。


「…綺麗な髪だなぁ」


金色の髪に指を通しながら、ついなまえの口からはひとり言のように言葉が零れる。
いつもは後ろに撫で付けられている前髪が、今日ははらりと額に掛かっているのが新鮮だった。
まじまじと見つめながら指を髪に絡めているうちに、自然となまえの口元が緩やかな弧を描く。
大きな身体が窮屈そうにソファに収まっているというそれだけで、龍司がとても愛らしいと感じられるのだ。
腕組みしながら眉根に皺を寄せる寝顔と、小さく膝を折りたたんで縮こまる身体のギャップに、なまえの脳裏には猛獣の眠る姿が重なった。


「龍司、さん…」


大好きです。
小さな声で囁くと、なまえは指先を龍司の唇に走る傷の上へと重ねられていた。
薄っすらと開いた唇の上から傷跡をなぞると、擽ったそうに漏れた龍司の吐息がやけに色っぽく響く。
すぅ…と小さく吸った息を止めて一気に距離を詰めると、なまえは目を閉じて己の唇を龍司のそれに微かに触れる程度のキスを落とした。


「…っ、龍司さ…」


そっと唇を離して目を開けたなまえの視線の先には、どこか嬉しそうに笑った龍司がしっかりと目を開けてなまえを見つめていた。
いつから起きていたのかと思い返すと、途端になまえの身体が一気に熱を帯びた。
腕組みしていた両腕が解かれるのを混乱した頭で見ているうちに、その両腕になまえの身体が抱きしめられた。


「そういう事は、わしが起きとる時にせえや」
「も…いつから起きてたんですか…?」
「お前がわしの頭撫でて、綺麗な髪や言うてた頃には起きとったわ」
「寝たふりするなんて…ひどいです」
「まぁええやんか」


控えめに襲われんのも、結構くるもんやな。
くつくつと笑いながら抱きしめる龍司に、なまえは紅く染まった頬を隠すので精一杯だった。
先ほどまで自分がしていたように髪を撫でられると、それだけでなまえは心が満たされてしまう。
ちらりと覗き見するように龍司へと視線を預けてみると、そっと後頭部が引き寄せられ、なまえの唇には触れるだけのキスが送られるのだった。
Baiser

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