Lust | ナノ

カウンターで上機嫌に酒を飲む伊達を横目に、なまえはこっそりと溜息を吐く。
せっかく誘ってもらった食事も、場所がニューセレナだと判るとなまえの心の中にはぐるぐるとどす黒い感情が湧き出したのだ。
伊達はこの店のママと親しげな様を見せ付けて遠回しに諦めろと言っているのではないかと、つい伊達の腹の内を勘繰りたくなってしまう。
そもそも伊達に好意があることなどは告げた覚えもなければ、態度をおくびにも出してはいないはずなのだが、それも自分がそう思っているだけで実は伊達には気持ちが知られていたのだろうかと不安が過ぎる。


「どうしたなまえ、酒が進んでないようだが…」
「いえ、その…少し酔ったみたいで…」
「そうか?じゃあ水でももらうか」


ママ、水一杯頼む。
伊達の言葉ににこやかな笑顔を向けたニューセレナのママに、なんとも言えないモヤモヤとした感情がなまえの中に込み上げた。
おいしいはずのつまみですらも、なんだか味を感じられない。
さり気なく腕時計に視線を落としてみるも、まだ夜は始まったばかり…といった時間であった。


「ん…?なんだ、この後予定でもあったのか?」
「っ、え?」
「時計。見てただろ、今」


言葉に詰まるなまえに、伊達から向けられたのはなんとも申し訳なさそうな寂しそうな表情だった。
その表情を前に何も返答できずに居ると、水の入ったグラスを差し出したママに向かって伊達がお会計だ、と一言告げた。
嗚呼、機嫌を損ねてしまったのだろうかと後悔してももう遅く、なまえがバッグの中から財布を探し出すより先に会計を済ませた伊達に行くぞと促されてしまった。
ご馳走さん、と片手を挙げてママに挨拶する伊達を慌てて追いかけながらなまえもエレベータに乗り込むと、扉が閉まった途端になまえの手に伊達の手が重ねられた。


「っ、伊達さん…」
「悪かったなぁ、お前に嫌な思いさせちまったみたいだ」
「そん、な…私の方こそ…」


真っ直ぐに閉ざされた扉の隙間に視線を預けたままの伊達の横顔に答えてみたものの、伊達がどんなつもりでなまえに悪かったと告げたのかは判らなかった。
握られた手がやけに熱く、閉鎖された空間に閉じ込められた時間が永遠にも近いほど長く感じられてならない。
どうしたものかと口を閉ざしたままのなまえの手が突然ぎゅっと握り締められ、それだけで胸が痛いほどに締め付けられたのが判った。
ポーン、という機械音と共にエレベーターの扉が開くと、なまえの身体は伊達に手を引かれたままで神室町のネオン街へと足を踏み出した。


「いくら馴染みのママの居る店で融通が利くからって、初めてお前と二人で飲むには不向きな店だったよな。悪かった」
「そんな…、せっかく連れてきていただいたのに、私の方こそ…」
「いや、いいんだ。俺はどうにも…こういう事は不得手でなぁ…。女心がまるで判っちゃ居ないって、良く言われるんだ」


相変わらずなまえとは顔を合わせぬままで後頭部をぼりぼりと掻くと、伊達はなまえの手を引いたままで神室町をぶらぶらと歩き出す。
いつまでも離れる事のない手が、なまえには気恥ずかしくもあり嬉しくもあった。
ゆっくりとした足取りに気遣いを感じながら、なまえは思わず伊達の手をきゅっと握り返す。


「なあ、なまえ」
「は…はい」
「もう一杯、飲みなおさないか?」


まだ、帰るには早いだろ?
ようやく向けられた視線に大きく心臓を鳴らしながら、なまえは伊達にこくりと小さく頷いてみせる。
どこか不安げな瞳で誘う伊達に、なまえは急激な安心感に見舞われた。
もう少しだけ一緒に居させてください、と素直な思いを告げれば、伊達の表情にはようやくホッとした笑顔が浮かんだのだった。

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