Wrath | ナノ
(大吾@ポケット)


どれだけ偉い人になっても、どんなに時間が経っても、彼は冬になるとあの白いダウンを着てくれる。
昔のようにラフな服装で居る事はほとんどなくなって、彼の普段着はスーツだと言ってもおかしくないくらい、きちんとした身なりでいる事が当たり前になった。
仕事の合間に時間を作ってもらった時は、決まって彼はスーツ姿で、きつく締められたネクタイにも隙は見られない事が増えた。
それでも、冬になると彼は昔のように白いダウンを身に纏って、約束の時間にはいつも待ち合わせ場所でそのダウンのポケットに手を入れてきょろきょろと私を探してくれる。

「大吾さん、ごめんなさい。待ちました?」
「いや、さっき着いたばっかりだ」
「すみません、遅れちゃって。…あ、またこのダウンの季節ですね」

ふかふかのダウンにぎゅっと抱きついてみると、かさかさと音を立てて生地と髪が擦れ合う音が聞こえた。
彼のダウンはもう3代目になるだろうか。
新しいダウンに変わっても、彼は必ず白地の昔のダウンに似たモノを購入しているような気がする。
強く抱きつくとしゅう…と萎む感覚も好きだけど、彼がどんなに仕事上偉い人になっても変わらずに居てくれる証のようにも思えて、冬になるのがいつも楽しみだった。

「ほらなまえ、いつまでもくっついてると映画遅れるぞ」
「…はぁい」

名残惜しいけど彼から離れてみると、初めて出逢った時から変わらない優しい笑顔が私を見ていた。
ダウンのポケットから出てきた大きな手が私の手を取って、私の大好きなその白いダウンのポケットへとまた戻ってゆく。
彼の熱が残っていたポケットの中はとてもあたたかくて、なんだかとても胸が苦しくなった。

「大吾さん、」
「ん?どうした」
「え、と……ありがとう」
「何だよ急に」

困ったように照れくさそうに笑顔を見せた彼に、何でもないと首を振ってみせた。
私が好きだと言った白いダウンを、寒くなるといつも着てくれる変わらない優しさが嬉しかった。
今度は心の中でありがとうを彼に告げて、一緒に潜り込んだポケットの中で繋がれた大きな彼の手をぎゅっと強く握り締めた。


***
thanx:momo様@ポケットの温もり
単語DEお題をたくさんいただきまして、大ヒットがいっぱいでした。
すぐさまこれは!と思ったのが今回の大吾の話です。やっぱり白ダウンの大吾が大好きです^^
どんなに偉い人になっても、彼女とのデートでは昔と変わらない格好で迎えに来てくれる大吾…だったら萌えるなぁ。
素晴らしいインスピレーションを与えてくださって本当にありがとうございました!

Nov14 20:17


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