名前の声が聞こえた気がした。まさかな、と思う反面、もしかしたら、と期待している自分がいる。


テレパシー



「練習中にさ、」


名前お手製のハンバーグを口一杯に含みながら、二人の決まり事になりつつある“今日の出来事発表”を始める。名前は俺も手伝ったコンソメスープを飲み、相槌を打った。


「名前の声が聞こえた気がした」


付け合わせのブロッコリーをフォークで突き刺す。柔らかめのブロッコリーは、若干いつもより塩見が利いているようだった。
彼女は一瞬動きを止めたが、すぐにマグカップを傾けた。


「…何時くらい?」
「んー、昼食ってからだから、多分一時過ぎ、かな」
「一時かあ……」


箸が止まる。彼女は自分の唇を指先で触り、記憶を辿るように視線を右上に泳がせていた。
風呂上がりのほんのり濡れた毛先が名前の白い首筋に掛る。


「あ、」


ずっと唇を触っていた人差し指を顔の前で立てた。ふと気が付くと、手元の“俺仕様”の大きなハンバーグは、半分以上減っていた。


「私、お昼ご飯食べながら裕太に会いたいなぁって考えてた」


BGMはひょうきんなテレビコマーシャルのアップテンポな曲。一度聞いたらつい口ずさんでしまう、耳に付いて離れない曲だ。


「…テレパシーかも知れない」
「…テレパシー、」


二人で暫く見詰め合い、それからどちらともなく噴き出した。
なにを真剣に、夢みがちな中学生の女の子でもあるまいし、と。


「名前のテレパシーを、俺が無意識にキャッチしてたんだな」
「すてき」
「俺がアンテナで」
「私が電波なの?」


楽しそうに笑う彼女の声と、すっかり曲調の変わってしまったBGMが妙にマッチしている。


「じゃあ、」


名前はフォークを置いて、真っ直ぐな瞳をこちらに寄越した。
思わず背筋を正してしまう。


「もしも、凄くすごく遠くの名前も分からないような国に私がいても、見つけ出してね?」


私のアンテナなんだから。
そう言って一テンポ置いてから彼女はフォークを持ち直し、サラダに手を伸ばした。赤い、半分に切られたプチトマトが形を歪めて三本の銀色の刺に刺さる。


「自信はあるよ」


目が合った。名前は一瞬はにかみ、目を逸らしたが、すぐにまた目を合わせて「ありがとう」と言った。

食事は再開され、名前が“今日の出来事”を発表する順番だ。

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