笑いながらテレビを見ていたはずの名前が、突然、泣き出した。


甘い涙


「え、名前?どうしたの?」
「ゆうたぁ…」
「ちょ、なに?」


両目からポロポロと涙が溢れ、名前はすっかり俯いてしまった。
訳が分からず、テレビに視線を向ける。2012年の世界を題材にした映画が公開されるとかで、最近よく流れているコマーシャルだった。
確かにリアルで怖いけれど、彼女がそれだけで泣くような女の子だとは思えなかった。


「名前…これ?」


こくん、と小さく頷く。名前は泣きやみ、俺の顔を見上げていた。
頭を撫でながら、どうして突然、と聞いてみた。


「本当に世界は滅びるなら、もっと早く裕太と出会いたかったなぁって思ったの…怖くて……」


目尻にくっついた涙を服の袖で拭いながら、また視線を逸らされる。
名前は本気で悲しがっているのに、嬉しいと思ってしまう俺は彼氏として最低なのだろうか。


「大丈夫だよ…名前、」


きゅんきゅんしている胸の奥。
名前の手を取って、抱き寄せた。小さな体がすっぽりと収まる。
華奢な背中が、しゃくり上げる度に震えるのが直に感じて切ない。


「俺が名前をずっと守ってあげるから、死のうが生きようが、ずっとずっとだよ、…だから大丈夫」


ぐ、と体を離して、真剣な眼差しで俺を見詰めた。それからにっこり微笑んで、また抱き付く。


「ほんと?」
「ほんと」
「…好きだよ」
「うん、俺も」


悲しみの涙と喜びなんてまったくの真反対なのに、と。それでも優しい彼女に今日も俺はときめかされる。

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