どの世界でも彼女はウキョウのことを忘れていた。
それでも彼女の幸せだけを望んできた。別の誰かが愛しい彼女のとなりにいる事実に傷付いたのは最初だけだ。
慣れてしまった、と言うべきなのかもしれない。
原初の世界以外では自分が存在していない。そして原初の世界では彼女が既に亡くなっている。
慣れたというよりも諦めていた、というほうが近いだろう。
ウキョウはぼんやりとそんなことを考える。まさか一度は共に生きることを諦めてしまった彼女が今、となりにいるなんてあの頃は想像もしなかった。
となりで眠っている彼女の頬に触れる。彼女に触れることが許されても今までの罪は消えない。それでも、犯した罪の数以上に彼女を幸せにする――否、彼女と幸せになるつもりだ。


「……ん、ウキョウ……? あれ……私……」


彼女、名前がうっすらと目を開ける。名前を呼ばれるのは今でもくすぐったい。
時計の針は夕方の4時を指している。どれくらい眠っていたのだろうか。


「ごめんね、起こした?」
「そういうわけじゃないけど……ウキョウ、私の寝顔ずっと見てたの?」


名前の部屋に招待されて二人で喋っていたのが2時間くらい前だろうか。疲れてしまったのか、彼女はいつの間にか眠っていた。
最近大学の講義や課題、アルバイトで忙しい日々が続いていたと聞いていたから起こすのも悪いと思い彼女が目を覚ますまで考え事をしていたのだ。
つまりその間ずっと寝顔を見ていたというのも否定は出来ない。
ウキョウが頷いたのを見て名前をその顔を真っ赤に染める。


「大丈夫だよ。可愛かったから」
「そういう問題じゃ……! ……そもそも折角部屋にウキョウを招いたのに寝ちゃった私が悪いんだけど」


ごめんなさい、と名前は頭を下げた。
ウキョウは特に気にしていない――寧ろ彼女の新たな一面を見ることが出来て楽しかったのだが。
赤面したり恥ずかしそうに顔を俯けたり忙しなく変化する彼女の表情が好きだ。


「本当にごめんなさい。……お詫びにはならないけどせめて夕飯食べていって。ウキョウの希望通りに作るから」
「じゃあ俺は名前の好きなものを食べたい」
「え、でも……」
「本当は名前と過ごせるだけで満足だけどそれだけじゃ納得してくれないのは分かってるから。だから君の好きなものを食べたい、それだけだよ」


料理を始める前に珈琲をマグカップに注いでテーブルに置く名前を見てウキョウは幸せそうに笑う。
どの世界でも彼女の行動や人柄は変わらなかった。
もしかしたらこの優しさに惹かれたのかもしれない、と呟いた。
きっと今、彼等は幸せだ。




何度忘れても君は君で





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