彼女、名前を自宅によんだのはこれが何回目になるだろうか。いつもは冷たい、静かなだけの空間が温かなものになる。そんな感覚が心地よかった。


「ねぇ、名前」
「どうかしましたか、イッキさん」
「ううん。なんでもないよ」


ベッドに腰掛けて雑誌を読んでいた名前は不思議そうに首を傾げて、また視線を元にもどしてしまう。それもそうだ。彼女が僕をずっと見つめてくれるはずがない。今、僕たちはただの友達。


でも、僕はいつもでもそんな関係でいるつもりはないよ。


そんなことを考えながらコーヒーを入れていたと時、向こうにいる名前に声をかけられた。何だろうと内心少し浮き立つ気持ちでその声に答える。


「イッキさん」
「ん?どうかした」
「イッキさんは赤い糸って信じますか?」
「赤い糸?」
「はい」


赤い糸。


多分、今の僕にはもっとも遠いような話。本心から言うと今まで全く信じた事なんてない。一度たりともだ。


「信じないよ」
「そう、ですか」


きっぱり答えると何故か肩を落とす名前。


「そんなこと僕に聞いて名前はどうするの」
「特に意味はないです…けど、聞いちゃ駄目ですか?」
「別にかまわないけど。そういう名前は信じてるの?」
「私は信じてます」
「へぇ…そうなんだ」
「赤い糸って素敵じゃないですか?これもまた信じてるだけでやっぱり何か違ってくると私は思うから…だから私は信じます」

少し恥ずかしそうにそういった名前は、今度は僕の目をじっと見つめた。彼女は僕に、いったいどんな答えを求めてるんだろうか。

「それでも僕は信じられない。でもね」

君との赤い糸だったら喜んで信じるよ。

「名前は?」
「私は…私も信じたいです」
「そっか。それは嬉しいな」
「でもイッキさんは…」
「しっ…それ以上は言わないで」

持ってきたコーヒーを机の上に置いて、そっと彼女の唇に人差し指を当てた。

「きっと名前はまだ気づいてないから」

また首を傾げる名前。ほら、やっぱりね。だからまだ、まだ駄目なんだ。もう少ししたら。




ねぇ、いつになったら気づいてくれる?
僕が欲しいのは赤い糸なんかじゃない。




君だってこと。




赤い糸よりほしいものがある





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