君が好きだって気づいたのはずいぶん前の話。

「イッキさん」

名前を呼ばれるだけで、何かが騒ぎ出す。ファンクラブの子たちの黄色い歓声で呼ばれる事とは大違いな恋人。

「迎えにきたよ、名前」
「今日はちゃんと時間通りでしたね」

言っている事は文句なのに、嫌そうな雰囲気は微塵の欠片もない。

「その言い方は違うと思うんだけど?」

毎回のように遅れる。そんなのわざとに決まってるじゃない。正確に言えば、早めに行って隠れてるだけ。ちゃんと君が見える場所で、待ち合わせ場所を見ている。

楽しそうに空を見上げたり、ショーウインドウを覗いたり。そんな行動をして待っている名前。少しでも僕を思い浮かべていたらすごく嬉しい。

「いつもにイッキさんが遅刻するからです」
「ごめんね、でも悪気はないんだ」
「そう言ってまた遅れませんか?」

初めはこんな気持ちを信じたくなかったし、意味もなく自分が認められなかった事もある。それも今では笑ってしまえる程に、君が好きで仕方ないんだけどね。

「そんなに僕って信用ない?」
「時間に関してはあんまり…」
「正直、名前に言われると痛いな」
「ふふっ…足止めされてる事は知ってますよ」

名前も記憶を失う前はあの子たちの中にいた。今では解散されてしまった集まり、前ほどとは言わなくても瞳の力が道を阻む事が面倒だ。

「今のって笑うところじゃないでしょ」
「だって…イッキさんが拗ねてるから」

手で隠しても、小さく漏れてくる声は笑っていた。

「じゃあ笑ったから、おしおき」
「きゃっ…イ、イッキさん!?」

隣を歩く名前の身体を引き寄せると、小柄な身体は面白いくらいに跳ねた。

「ま、周りが見てます!」
「これはおしおきだから、」

君が恥ずかしがらなきゃ、やる意味がないんだよね。

「だからって……んっ」

名前が可愛すぎるからいけないんだ。自覚してしまってからは、何もかもが愛しくて。僕だけで独り占めしたい、けど好きな所で君に触れたい。

「顔、真っ赤になったね」
「イッキさんの、せいじゃないですか」

腕の中の君は、赤くなった顔を押し付けるように。服を掴んで俯いてる。

「大丈夫?」

触り心地のいい髪を撫でながら聴いてみれば、案の定、返事は返ってこなかった。

本人は気づいてないのかな?

代わりにピクリと肩を揺れたけど。

表情が見えないのは残念。でも、少しだけ見えた横顔は真っ赤に染まったままで…嬉しかった。

「本当に君って可愛いよ、名前」

惚れた方が負け。

君に恋して、本当なんだなって感じたよ。

僕の隣で名前が喜んでくれる事が一番の幸せ。

そして、ゆっくりと君の色に染まっていく。病に蝕まれたかのように、甘い底へ堕ちていく。




僕を蝕む病が恋というならば





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