神に愛されし者 5
闇へ引きずりこまれ、落ちていたアックスだったが、地面に倒れて意識を失っていた。
「う…」
睫毛が微かに動き目を開ける。ヨロヨロと起き上がる。
「あ―僕、あそこから落ちたんだっけ?」
上を見上げる。闇で見えない。
「……それはいいとして、あーたーまーいってぇ!」
今更思いだしたのか、後頭部に痛みを感じ触ると、ある一部だけ膨らんでいた。 涙目になりながら頭を擦る。
「しかし、何処ここ。もしかして地下? ……少し灯ついてるから歩くだけなら大丈夫かなぁ」
目の前にはまっすぐに通路があり、曲がる角もない。 アックスは気を引き締めて歩き出す。
「たく、あんなとこに隠し扉みたいなものあるなんて知らなかったぜ!」
ブツブツと一人で呟く。
「こんなのに気付かなかったなんて、ラーグが知ったらまた、何か言われ……ん?」
気付くとその先は扉がポツンとあった。ぶつかる直前で立ち止まり、ドアノブを左手で持つ。右手は腰にあったホルスターに収まっていた銃を掴む。アックスは銃を得意する。たまに外す時もあるが、それでも周りが凄いと認める位の実力の持ち主だ。 胸の位置に構え、深呼吸を一回する。
「誰もいません様に!」
勢いよく開け、銃を向けるが、その先にあったのは。
「暗い…」
また闇だった。 右手をおろし、数秒固まっていたが、気を取り直し部屋に一歩足を踏み入れた。 すると灯がポッ、と付き急に中が明るくなる。
「っ!?」
暗くて分からなかったが、右側に恐らく上に続いているのだろう階段がある。目がいった場所は、違う。その部屋の壁には何かが描かれていた"何か"だ。 まるで誘われているかのように足が動く。 近付くとそこに描かれていたのに、アックスを首を傾げた。
「…龍…鳥…亀……と蛇? …虎?」
首を傾げ、訝しげな声で呟く。暫くその絵を見つめ、気付く。
「あれ、字が書いてある……」
分からない文字なのに、分かる。読めない文字な筈なのに読める。 不思議に思うが口が動く。
「青龍」
その刹那、頭の中で何かが弾けた音がし、アックスは悲鳴をあげる。頭を押さえ、しゃがみこむ。何が起こったか解らない。何かが自分の中に入ってくる感覚がし、顔をしかめる。 暫くすると、頭の痛みがなくなり、顔をあげる。
「今のは……」
壁を見ると、先程まで綺麗だった龍の絵が黒くなっており、目を丸くした。 まるで、役目を終えたように感じた。 ヨロヨロと立ち上がり、絵を眺め思う。
「他のも黒い………」
他の絵も龍と同じように、黒くなっていた。しかし、アックスはある一つに釘付けになっていた。
「何で、この………げん、ぶ?ってヤツは、こんなに黒いんだぁ?」
玄武はどれよりも黒い。そっと、それに触れるが、何も起きなかった。 不思議だな、と考えつつも早く皆と合流しようと階段に向かって走って行った。
リゼルは微かに建物が揺れてる感覚を感じた。立ち上がり辺りを見回す。
「……揺れてる」
上からは砂のようなもの等がはらはらと降ってくる。長椅子に寝かせているフォルテに掛からないように自分が羽織っていたコートを掛ける。 数秒後、揺れは止んだようだ。 安堵していると、ふと頭の中で何かが聞こえ、振り返る。しかし、誰もいない。 しかし、彼は分かっているのか、表情を曇らせた。
「…はぁ…」
長く深い溜め息をつき、小声で呟く。 "きてしまった"、と。 天井を見る眼差しと表情は悲しさに満ちていた。
「…た、ないよね。……なったのは……けどぉ!」
バタン、と勢いよく開けられた扉の音に驚き後ずさる。
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