その炎が今、灯された 2
東の方角にいたリゼルは、走っていた。その表情には焦りと不安が表れていた。しかし、それだけではないように見える。それ以外の気配が彼を包んでいた。 走り続け、ある場所で、倒れている何かを発見する。 見覚えのある服、赤い髪。 それは――
「アックス?!」
近くに駆け寄ると、彼は仰向けの状態で目を瞑って倒れていた。赤い髪が地面に散らばっていた。
「アックス? アックス、大丈夫!?」
声をかけても、反応しない。彼を抱き起こす。
「アックス! 起きろ、アックス!」
体を揺らすと呻き声が聞こえ、その後、ゆっくりとアックスが瞼を上げた。リゼルはホッとする。 アックスは焦点が定まってないのか、瞳を彷徨わせる。ある程度して合ってきたのか、リゼルの顔を見つめた。 掠れた声でリゼルの名前を呼ぶ。リゼルは片眉を上げる。
「もう。みんな、心配したんだぞ!?」 「あぅ……ご、ごめん……」 「体、冷えてるじゃないか。ほら――」
アックスに羽織っていたマントをかける。ションボリとし、反省している彼の頬と頭を撫でる。頬は冷たかった。
「あー。アックス、発見!」
二人分の足音が近づいて、フォルテの声が届く。リゼル達に接近すると足を止めた。 安心したようで、息を吐く。
「たく……どうせ、寝てたんだろ」 「そ、そんな事無いよ! 僕、おっさんと話してたんだぞ!」 「おっさん?」
疑わしい目をするラ―グに対し「そう! すっげぇ髪キレ―なおっさん」と興奮したように激しく首を縦に振る。
「髪が綺麗なおっさん……そいつとは、何を話したんだ?」 「うんとねー、ラ―グ達の事でしょ? 後、言葉教えてもらった!」 「何て言葉なの?」 「確かね、依坐って言葉!」
聞いた事がない言葉に、首を傾げた。僅かに、目を細めた者もいたが、誰も気づかなかった。
「そんな奴、見なかったぞ? やはり、寝てたんじゃ――」 「寝てない!」 「じゃあ、寝ぼけてた、とかか?」 「寝ぼけてもない!」
アックスとラ―グの言い合いが続いていると、コトハ達がこちらに来た。 それぞれ、アックスに反応する。謝るコトハに心配しました、とシャンクス。レヴェリーは、泣いていた。慌てるアックスは立ち上がり、ありがとう、とお礼をする。
「アックス殿も見つかった故、そろそろ戻るでござるか」 「そうだね……アックス、体が冷えてるから温まる飲み物、用意しなきゃ」 「アタシも手伝うわー」 「私もです」 「……みんなで飲みましょうか? いい茶葉がはいったんです」 「そうしましょうか」 「僕の部屋?」 「貴様の為にやってくれるんだから、そうだろう」 「そっか! じゃあ、行こう!」
アックスの言葉に、皆歩き出す。 空を見て呟く人物が一人。 何を言ったのか。 それは本人しか知らない。
「アックス殿、手が冷たいでござるな」 「コトハは温かいね〜」 「コトハは、体温が少し高い、から……」 「ラ―グも意外に温かいわよねー」 「……そうか?」 「試しに……えい、です」 「!?」 「どうなのかな、シャンクス?」 「リゼルさん、フォルテさん。ラ―グさんの手、温かいです」 「それは……良かったな」
今、宿命という灯がともされた。
――ほのおはもえる。もえつきるまで、それはとめられない。そう、だれにも――
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