定めの炎 5
リゼルが外に出ると、丁度フォルテが帰って来ていた。慌てた感じのリゼルにフォルテは声をかける。彼女は荷物を抱えていた。
「どうしたの、リゼル? 何かあったの?」
その声にリゼルは足を止め、彼女に早口で言う。
「フォルテ! アックスを探してるんだけど、アックス見た!?」 「え……えっ?」
勢いがありすぎて、フォルテは彼の問いを理解するのに数秒かかった。 申し訳なさそうに「ごめん、見てない」と首を振る。リゼルは目を伏せた。
「でも、アックスがどうかしたの?」 「説明しないとね。アックス、さっき外に出たまま帰ってこないんだよ」 「外って……アックスは今日、任務なかったし。遊びに行ったんじゃないの?」 「遊びに行ったはないかな。コトハさんとレヴェリーさんがシャンクスを探してて、それで――」 「もしかして、探しに行くって言って、この森の中に?」
後ろを振り返り、森の中を見る。リゼルは肯定した。
「最近は、日が暮れるの少しずつ早いし……探しに行くの? 通信機は?」 「心配だしね…アックス、通信機、持ってないみたい」 「アタシもこの荷物を置いたら、探すの手伝うわ」 「えっ、いいの?」 「いいのって……何言ってるの? アックスの事、アタシも心配だし」
当然でしょ、とさも当たり前ような顔をするフォルテにリゼルは安心したように息を吐く。
「それじゃあ、お願いしようかな…」 「でも、何してるのかしらね。アックスは……後で、怒っとかないと」 「シャンクスを探す為だから……アックスに怒ったら、コトハさん達が落ち込んじゃうと思うよ。さっきも、反省してたしさ」 「……怒るの、止めとく。でも、帰ってこない事には、注意しなくちゃ。心配したって」 「だね…」 「どうした、二人して」
低い声が後ろから聞こえ、二人はそちらに視線を向ける。ラ―グがそこにおり、訝しげな目つきをしていた。
「あ、ラ―グ。おかえり」 「おかえりと、お疲れ様」 「あ、あぁ……それより、どうして外に……」
リゼルは任務がなく、フォルテは買い物袋を抱えたまま、外に突っ立っているので不審に思ったのだろう。僅かに首を傾げる彼に、リゼルは説明する。
「実は、シャンクスを探しに行ったっきり、アックスが帰ってこなくて…」 「…俺が来た道にはいなかったな」 「そっか…」 「でも、何故、シャンクスを探しに?」 「コトハさんとレヴェリーさんがシャンクスを探してたらしいんだ。で、たまたまコトハさんと会って話をしたらしくって。そしたら、シャンクス探すの手伝うって言って、コトハさんが何か言う前に行っちゃったんだ」 「あの、アホらしいな」
苦々しい表情をする彼に頷く。全くもってその通り。 人の手伝いをするのはいい事だが、人を心配させるのは正直止めてほしい。 こっちも身が持たないから。アックスは気をつけると言うのに、結局今回のようになってしまう。
「俺も、手伝えばいいのか?」
唐突な言葉にリゼルは「はい?」と、素っ頓狂な声を上げてしまう。ラ―グは眉間にしわを寄せる。
「だから。俺も手伝えばいいのか、と聞いているんだが?」 「え、と……ラ―グは任務で疲れてるし……」 「リゼル。ラ―グはアックスを探したいのよ。心配なの」
ギロリと睨みつけられたフォルテは「キャー、怖い」とニヤニヤと楽しそうに笑う。 気に障った、それと諦めたのか視線をリゼルに戻す。リゼルは、口元を綻ばせる。勿論、バレないように。だが、分かったようで舌打ちされる。
「お願いするよ、ラ―グ」 「たく。端から、そう言えばいいのにな」 「すぐ、そう言う……」
ションボリするリゼルに、ラ―グは心の中で反省する。口には出さないが。 動揺する彼の心情を察したのかしてないのか、フォルテはリゼルの肩を叩く。
「ほら、リゼル。アックス、探しましょ」 「そ、そうだね!」
顔を引き締め、探そうとした時――
「リゼル殿ー! フォルテ殿にラ―グ殿も」 「追いつきました」
コトハ、シャンクス、レヴェリーの三人が走ってきた。
「アックスは……?」 「今から、探すよ。フォルテとラ―グも手伝ってくれるって」 「お二人共、感謝するでござる」
申し訳なさそうに頭を下げるコトハに。フォルテは慌てて首を横に振る。
「コトハがそこまでする必要無いのよ? 人手はたくさんあった方が早く見つけられるし。ね、ラ―グ?」
彼女の言葉に、ラ―グは頷く。 頭を上げるが、コトハはまだ反省している様子。自分のせいでここまで大事になってしまったという罪悪感でもあるようだ。 後で、アックスにしっかりと言わないといけない、とフォルテは心に誓った。
「とりあえず、探す場所……うぅん。探す方角決めない? みんな一緒の所を探すわけにもいかないし」 「そうでござるな――ところで、お二人は通信機を持っておるか?」
ラ―グは肯定するが、フォルテは首を振り、所持していない事を伝えた。
「では、フォルテ殿は……通信機を持っている者と行動するでいいでござるか?」 「そうね……どうしよう」 「貴様は荷物を置いて行かないと、いけないだろう?」 「まぁ、そうね……」 「俺も中に少し用がある」 「……あー、はいはい。他の人より遅くなるから、一緒に組めって言いたいのね。了解。そういう事で、ラ―グと行くわ」 「分かったござる。拙者とレヴェリー殿は一緒に北を捜索するでござるので、シャンクス殿は西。ラ―グ殿とフォルテ殿は南。最後に、リゼル殿は東をお願いしたい」
テキパキと指示を出すコトハに、皆は感嘆とした声をあげる。それに、コトハは照れる。
「感心される事ではないでござるよ。誰だって出来るでござる故……」 「ですが、すごいです。マスターにも、見習ってほしいものです。今度、指導してあげて下さい」 「はは……」
彼女の目は本気だったので、リゼルは苦笑いをする。
「おい。本題から逸れてるぞ? 探すなら、早くした方がいいだろ」
彼の言葉に、気を引き締める。
「それでは、アックス殿を見つけ次第、通信機に連絡を。お願いするでござる」 「了解です」 「分かった」 「急いで、荷物置いてくるから! ラ―グの用も済ませるから。行くわよ、ラ―グ!」 「分かった。分かっているから、腕を引っ張るな!」 「頑張れ、私……」
それぞれ返事をすると、各自捜索する方角へと行動を開始した。
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