この悪は世界に 10
『あ、うん。じゃあ簡単に言うよ』
レオは一呼吸した後に本題を話し始める。
『エルシェの森の中にいるけど、かなり威圧感はあるね。中に入ったら気持ち悪い。簡易結界をはってるけど……あんまり保たないね。とりあえず、アークフォルドでもらった結界をはってる途中。そんな感じかな』 「……」
返事もせずにシャンクスは左手の人指し指を曲げ、口元に持っていく。 不安そうに問い掛けてきたレオにシャンクスは返答をする。
「すいません。少々考えてました。だとすると、状況は悪い方へ傾いたままですね」 『そうだね。ミウナが例のアレで周りを調べてみたんだけれど……ここからはミウナの方が早いか。ミウナ、よろしく』
ミウナと呼ばれた少女が画面に映る。
『はい。どうやら奥にこのケガレを造り出しているモノがあるようです〜。姿は機械のようですね〜。大きいです。数は一つ。そんな感じですわ〜。如何でしょうか〜?』 「成程、分かりました。姿まで解るとは、さすがです。報告有難うございます」 『形は筒状でしょうかね〜? 見ないと分かりませんが』 「では、すぐにでも出発しますので、結界の方をお願いします」 『了解しましたわ〜』
プツン、と切れた通信機を片手にシャンクスは慣れた手付きでボタンを押し始める。
「早速、三人に連絡をしますので」
アックス達に通信する為、リゼルから離れる。
「情報を読み取る、力か」
「え?」
ユアが突然何かを言い始めたので、リゼルはすっ頓狂な声を出した。それがおかしかったのか、彼は笑う。
「だから、ミウナちゃんの力。特殊能力」 「…? あぁ、あの力? 確か、えっと……何だったっけ……」
思い出そうとするが、なかなか出てこない。もう少しで、分かるような気がするのだが、やっぱり何も浮かばない。
「エフェクト、だよ。リゼルちゃん」 「あっ! それだ、それ。エフェクト!」 「……んで、ミウナちゃんは情報屋とも呼ばれるし、または……」 「記憶泥棒……」 「泥棒なんてまだ、いいんじゃない? もっと酷いと、死者を愚弄してるとか、そんなのだよ。記憶媒体とかさ」
特殊な力の事を"エフェクト"と呼んでいる。ミウナも特殊な力を持っている持ち主だ。コードのようなのを刺して情報を読み取る。無機物や有機物、死人だとしても、彼女は読み取る事が出来る。生きていた記録を記憶を読み取るのだって出来る。 生きている人間の記憶にだって可能なのだ。 怖れない人間なんているのだろうか?
「役には立つかもしれねーけど、やっぱ俺様は嫌だね。他人の記憶を読み取るなんて」 「ユア…」 「分かってるよ。別にミウナちゃんの事を不気味がるとかしないって」
リゼルの言いたい事が分かってるようで、ユアは、首を振る。そして「けど」と続ける。
「他人の記憶なんか得たらさ、自分の事も精一杯なのに、大変だよなってさ」 「確かに、そうだね。背負わなくちゃいけなくなるし……」 「何より、他人の大切な記憶を覗いてしまうんですから、辛いと思いますよ。他人の犯した過ちまでもを見てしまうんですから」 「どわぁ!」 「うわ!」
いきなり背後から話し出したシャンクスに、リゼルとユアは驚いて振り返る。
「シャ、シャン。ビックリしたぁ」 「気配もなく現れるな。心臓止まるかと思ったぞ」 「すいません。リゼルさんにマスター。しかし、私は気配を全くもって消してはいません。お二人が真剣に会話をしていたので、気付かなかっただけではないでしょうか」
腕を組み、シャンクスは言う。リゼルは謝り、ふと思う。
「あれ、終わったの?」 「はい。つい先程、終わりました」 「そっか。窓から降りてくるのかな」 「そうですね。確率は高いかと……」
三人は同時に声を上げる。互いに顔を見合わせる。リゼルとユアには焦りの色が伺えた。
「という事は、アックスが!」 「降りてくる?!」 「この状況だと、そうなる確率は非常に高いですね」
リゼルとユアの焦り声に対して、シャンクスは平然と言う。さも当たり前のように。
「あのヤロウが降りてくると、後々面倒なんだよな」 「それは、言ってはいけません。マスター、死ぬ覚悟でアックスさんを受け取めれば、面倒がなくなりますよ?」 「それはイヤだね」 「アックスさんの部屋は……あの辺りですね。待ってましょう。ここなら、私達への被害はゼロです」 「大丈夫かな、アックス……」
心配そうに、彼の部屋を見るリゼルの隣にいるシャンクスは、彼の顔を見ると、視線を前に戻した。
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