この悪は世界に 8
自分がもし普通なら、だったら、目の前の彼に好意を寄せるのだろうか。色々と考えていると、コツンと頭を軽く叩かれた。 思考から現実へと戻される。俯いていた顔を上げると、叩いた本人がいた。
「………あ、ラーグ?」 「どうした? 体調、悪いのか?」 「うぅん。大丈夫、何でもないわ………て、あれ?」
キョロキョロとするが、ジェミスの姿がない事に気付く。思っている事が分かったのか、ラーグは彼女が問い掛ける前に答えを言う。
「貴様の姉なら、さっき出て行ったぞ? フォルテの事お願いします、と言ってな」 「んなっ?!」
知らない内に、姉が出て行った事を聞き、フォルテは少し怒りを覚えた。
「ジェミス姉ってばーー! 本っ当に、自分勝手なんだから! もう!」
一人憤慨しているフォルテを、ラーグは何も言わず眺める。ひとしきり叫んだ後、ラーグがいる事を二度思い出し、慌て始めた。
「あ、えっと………き、気にしないでよ! 今言った事、ジェミス姉に言ったらダメだからね!」 「分かってる」 「ラーグって、口が堅いのか軽いのか………分かんない」 「何がだ?」
意味が分からない、と首を傾げる。
「だって、左腕怪我したの、ジェミス姉知ってたのよ。ラーグから聞いたって………」 「あ? ………それか。いや、あれは………言わないといけない空気だったからな……」 「ん?」 「つまり、すまん」
目を明後日の方向に向ける彼に、フォルテは何かを察したのか手を振る。
「……もういいわ。理解出来たわ。気にしないで。こっちも謝るわ……ジェミス姉がごめんなさい」 「………」
多分だが、言い寄られたのだろう。自分の事になると、例え好意を寄せているラーグにも、遠慮がない。ジェミスとは、そういう人だ。 恥ずかしくなって、一人赤面してしまう。コロコロと表現が変わるフォルテをラーグは見つめる。 視線に気付いたフォルテは、頬を叩くと、何かを思い出したのかラーグに目を向ける。
「あ、そうだ。ラーグ、何の用だったの?」 「…………あぁ。その事なんたがーー」
続きを口にしようとしたが、ピーピー、と音がした。二人の目線は音がなる通信機へ。フォルテはテーブルにある通信機を開く。少し待つと、画面にシャンクスが映る。
『フォルテさん。今、レオさんから連絡がきました。準備が出来次第、外へお願いします』 「了解! シャンクス達は外?」 『はい。マスター、私、リゼルさんは入口にいます。アックスさん、ラーグさんに連絡ーー』 「ラーグなら、連絡しなくていいわ。ここにいるし」 『はい、分かりました。では、アックスさんに連絡をしますね』 「よろしくね」 『では、後程』
プツン、と画面がきれたのを確認すると閉じ、ラーグを見た。
「じゃあ、行きましょうか」 「あぁ」 「窓から行く? その方が早いし」 「……どっちでもいい」
フォルテは窓へ走ると、勢いよく開ける。よく使う手段。急ぎの時は大抵、こうしている。時間がかからないからだ。 窓から顔を出し、下を見る。誰もいない事を確認すると、ラーグに目で伝える。彼は無言で頷き、窓の側に行く。
「先、行くわね。よっと」
何の躊躇もためらいもなく飛び降りた彼女に、ラーグも続いた。
通信機の音でアックスは目を開ける。
『アックスさん、準備を御願いします』 「はいよっと。了解」
シャンクスからの通信をきり床に置いた。 伸びを一回すると欠伸が次いでに出た。涙を服で拭う。床に置いてある銃を取ると、弾倉に弾丸があるかどうかもう一度確認する。手に持っている銃を左腰のホルスターに収める。もう一つ取り、同じ事をすると、右腰のホルスターに収め、二つのホルスターを叩く。
「よし。外に出よう!」
窓を開け、一瞬躊躇する。しかし、急がないといけない、と思い首を強く左右に振る。
「今日こそは……今日こそは、ちゃんと! 成功しますように!」
叫ぶように願をかけて、部屋の窓から出ていった。
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