この悪は世界に 6
「……着いた…」
三人は森の前で立ち止まっている。先程の場所からそれ程遠くない所にこの森はある。 神秘の、清らかな純潔の森の名称をもつのだが今は、その言葉のどれも当て嵌まらない。当て嵌まると言うのなら"けがれた"、がピッタリだろう。
「ここに立つだけでも、異様な感じがする」
「…そうですね」
余りの威圧感に息を飲む。 しかしここで立ち止まっている訳にも行かない。
「……さて、早いとこ中に入るとしますか。行くよ、二人共」
「はい」
「…了解」
三人は、気を引き締めて中へと足を進めた。
…………………
自室へ戻ったフォルテは支度を始める。
「……うーん、まだ実感沸かないわねぇ」
何せ、エルシェの森がけがれるなど自分の記憶を辿っていってもないのだ。ずっと昔にあったのかも知れないが、そのデータもない。 それに、あの森は強い力をもっているのだ。喩え弱いケガレを放ったとしても直ぐに浄化されてしまう。故にけがされる等ありえないこと。 話を聞いただけで、「はい、そうですか」と言える訳がない。まだ信じてもいないのだ。シャンクスの話が嘘だ、と思ってるのではない。
「自分の目で見なきゃ、分からないわね」
そう呟いた時、ドアが開く音がした。視線だけで見ると、紫色の髪の少女が立っていた。少し、フォルテに似ている。
「ジェミス姉」
ジェミスはフォルテの隣へ座る。
「どうしたの?」 「え、とね……」
控え目な声音。この二人は姉妹だ。明るく男勝りなフォルテとは違い、ジェミスは大人しく女らしい。 ジェミスはフォルテみたいな戦うのではなく、彼等を現場まで案内するナビゲーターが主な仕事なのだ。
「その、今から行くんでしょう?」 「うん、連絡がきたらだけど」 「そう……無理しちゃダメよ。フォルテは女の子なんーー」 「……その話はもう何十回も何百回も聞いた! 聞き飽きるっての! 大丈夫よ」
遮るようにして叫んだ。ジェミスはキョトンとしたが、直ぐに言葉を繋ぐ。
「だったらちゃんと姉の言う事は聞きなさい。フォルテは言っても言っても、怪我してくるじゃない」 「うっ。べ、別にそんな酷い怪我ではなかったんだからいいじゃない」 「酷い怪我じゃないって、前に、頭から血を流して帰ってきたような気がするんだけど?」
そう言われ、フォルテは「うっ」と言葉を詰まらせる。妹の事を気にせず、姉は続ける。
「それにまだあるわよ。左腕を盾にして思いっ切り刺されたとか……」
「ごめん。アタシが悪かったから! ……というか、何でその事知って!? も、もしかして……」 「ラーグさんから聞いたの」 「あんのヤロー! ラーグめぇぇえ!」
その怪我の事は、一緒に任務をしていたラーグしか知らないはずなのだ。姉はいなかったので、知られずに済んだ、と思っていたのだがどうやら彼が話をしたらしい。 詰めが甘かった、と思う。
「もう、女の子がそんな言葉をつかっちゃダメでしょう?」 「うぐぐっ。あの時、言っておけば良かった……ジェミス姉に言うなって」 「心配してるのよ、ラーグさんも。さてと、今日はちゃんと酷い怪我をせずに帰って来てくれるかしら?」 「それはキツいかもしれな……」 「フォルテ?」 「……はいっ! 怪我しないようにします」
フォルテはそう誓うと、胸を抑える。先程のジェミスの笑みは、変わっていなかったが気配が一気に変わり、怖かった。寒気が背中に走り心臓の鼓動がやけに早い。
(やっぱりジェミス姉には、勝てないなぁ…)
たまにフォルテは姉を羨しく思う。この部分だけを除いてだが。自分には女らしさなんてそんなにないのだから。 この髪だけが、唯一の。
「――で……て、フォルテ聞いてるの?」 「……えっと、何かしら」
「全くもう。森の事だけど、大丈夫? ケガレが入って体中、毒されないように気をつけるのよ」 「うん、分かってるわよ。それにもし入ってこられてもミウナがいるから大丈夫」 「ミウナさんがいれば安心ね。でも、だからって無理はしないでね」 「分かってますよー」 「それなら、いいんだけど……」
どうやら、信用されてないらしい。フォルテは悩み、閃く。自分の首を絞めるような案なのだが。
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