TOV ジュディス

 綺麗なきれいな川の中に入って、私たちは遊んでいた。
 狼姿のナマエがぶるぶるっと体を震わせる。きゃ、と私は思わず声を上げた。濡れた毛から水が飛んで、私にぶつかる。「あ、ごめん!」ナマエが慌てて謝ったけれど、私はくすくす笑って首を振った。

「良いのよ。濡れたらそうするのがワンちゃんだものね」
「狼なんだけどなァ……えいっ」

 ナマエが前足を上げて、勢いよく下ろす。川の水がばしゃりと跳ねて私にかかった。

「やったわね……それっ!」

 両手で水を掬ってナマエ目掛けて飛ばす。ナマエの顔面に直撃して、私はしてやったりという気持ちになる。

「この〜!」

 ナマエが跳ね飛びながら私の周りを駆け始めた。こんなのずるい。避けようがないじゃない。私は腕で顔を隠して、ナマエが起こす水しぶきの攻撃をしのいだ。四方八方から冷たい川の水が私を襲う。なんて絶え間なくて、気持ち良いんだろう。無邪気に跳ね回るナマエが可愛らしい。しばらくしてナマエは、満足したように足を止めた。

「どうだぁジュディス、参ったか〜!」

 ぐりぐりと頭を押しつけられて、私は、その頭を両手で受け止めて撫でながら頷いた。思わず笑みがこぼれる。

「参ったわ、ええ、参ったわ。ナマエには敵わない」
「ふふん、狼の私はこの体格だからね」

 得意げに鼻を鳴らすナマエ。川の中にお座りして、胸を張っている。青みがかった白い毛並みが、水に濡れて、しっとりとしている。夏の太陽の日差しを受けて、いつもとは違う輝き方をしていた。それも美しい。ああ、どうしよう。楽しくて顔が緩みっぱなしだ。
 他に誰もいなくて、私とナマエふたりっきり。夏の陽の下で、無邪気に川遊びだなんて。そういえば川遊びをするのは初めてだったかもしれない。テムザにもミョルゾにも水辺なんて無かったから。ナマエから「川で遊ぼう」と言われた時は戸惑いもしたけれど、こんなに楽しいなんて。誘いを受けて本当に良かった。

「どうする? そろそろ引き上げる?」

 すり寄ってくるナマエの頭に、返事代わりに右手で掬った水をかける。

「まだまだってことね! よっしゃ、やるぞ!」

 ばっと飛び退って臨戦態勢になったナマエに、私は相対した。少し跳ねてから勢いよく足を振り上げる。

「そぉれっ!」
「ばっふっ!」

 見事な水しぶきがナマエの顔にヒットして、私はガッツポーズを決めた。



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