KH リク

 ナマエは俺より2つ年上だ。そのせいなのか、時折、お姉さん風を吹かせることがある。でも俺は、知ってる。
 ナマエはあまり体が丈夫じゃないこと。暗がりが実は苦手なこと。泳ぐのが少し下手なこと。星の瞬く夜に不安そうにしていること。たくさんのアルバムを持っているのに、その中にナマエの写真はほとんどないこと。
 俺は、知ってる。
「リクは優しいねえ」とナマエが俺の頭を撫でた。出会った時にはナマエの方が大きかったけれど、今じゃ視線はほとんど一緒だ。子供扱いされるのは少し不満だった。確かに年の差は埋められないけれど、頭を撫でられるほど小さくないつもりだ。

「優しくも何ともない。あいつらがバカなだけだ」
「優しいよ。だってリクには本当だったら関係ないことなのに、私の問題なのに、怒ってくれたんだもの。ありがとう」

 ナマエは体が弱い、そのことはこの辺じゃみんな知ってることだ。その中に、ナマエの体質をバカにする奴らがいる。小さい頃から変わらなくて、そいつらがナマエをバカにするたびに、俺は怒ったり呆れたりして、ナマエから奴らを追い払った。

「関係なくない。大事な友達がバカにされてるんだ。俺の問題でもある」
「ふふ、そっか。ありがとうね」

 ナマエはしょっちゅうこうだ。『関係ない』と言って、俺たちと遠ざけようとしているような時がある。まるで自分は俺たちの中に溶け込めない、溶け込んじゃいけないとでもいうような……そんな感じがする。それは何だか悔しくて、寂しくて、俺はよくナマエの問題に首を突っ込んだ。ナマエが大事な人だというのも嘘じゃない。改めて言葉にすると、ナマエは意外そうに瞬きして、それから心底嬉しそうに笑う。そんな風に笑うなら、遠ざけようとしないでほしい。ずっとそうやって笑っていてほしい……。そう思うのは俺のワガママなんだろうか。
 日が暮れて、空に星が輝き始める。カイリとソラはもう帰っている。年下だから。ナマエと俺が二人きりで歩くのは、年上同士の特権ってやつだ。ちょっと遅くなっても問題ない。星を見上げて、ナマエが不安そうに目を細めた。

「星、きれいだね」

 本当にそう思ってるのかは分からないけれど、隠し切れない不安は伝わってくる。何か出来ることは無いかと考えて、俺はナマエの手を握った。びっくりしたのか、ナマエがこちらを見てくる。

「大丈夫だ、俺がついてる」
「……ありがとう」

 俺の真意を知ってか知らずか、またナマエは言った。「リクは優しいね」と。



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