自然による睡眠妨害
ぽつりぽつりと降る雨音は好きだ。メトロノームでさえ眠りこける俺には恰好の子守歌である。
だがしかし。
秒刻みで激しくなるこの雨には、子守歌の作用などあるはずがなかった。
あっという間にバケツをひっくり返したような勢いの豪雨へと進化したそれは、せっかく近づいた夢の世界を突き放してしまった。
「ちくしょー……」
とりあえず眠たくなるまで本でも読むか。
のろのろと体を引きずるように起き上がる。電気をつけようと立ったとき、窓の外で強い光が駆け抜けた。
一瞬の間を置いて響き渡る轟音。鼓膜をつんざくような盛大なそれに、俺は絶叫しながら飛び上がってしまった。
つんのめって転がって、落ちてきたらしい本が足の脛にごつりとぶつかり、それは散々な連鎖だった。
声にならない声をあげながら必死に身を起こす。とりあえず視界を確保しなければ。
うめきながら俺が起きるのと同時に、何故か部屋の扉が開いた。
暗闇に響いた扉の軋む音は大層不気味で、思わずまた叫ぶ。
そんな俺に、扉を開いた影が、そっと声を掛けてきた。
「爾?」
静かな聞き覚えのある声。
懐中電灯を手にしたその人は、俺を照らしながら歩み寄ってくる。
「ゆ、遊星ぃぃ……」
「あ、すまない。たまたま通りかかったら、物音がしたから」
俺の声が震えていたせいか、遊星は謝ってきた。たぶん、俺の顔も相当情けないことになっているんだろう。
遊星は部屋の電気を何回かつけようと試みたが、「やっぱり駄目か」と零した。
「やっぱりって、もしかして停電?」
「ああ。さっきの雷、結構近くで落ちたらしいんだ。しばらくしたら復旧するとは思うが……」
こちらを見た遊星は、くすりと笑った。
少し癒されたが、何故笑う。
俺の疑問を悟ったらしい遊星は、やはり笑いながら話した。
「爾は雷も苦手なんだな」
「も、って何だよ!」
「暗いところも苦手なんだろう?」
「そ、そうだけどよ。雷も暗いのも好きな奴はそうそういねーと思います!」
「そうかもな」
必死な俺の意見にとりあえずは納得してくれたようだが、いささか生暖かい視線を感じた。
とりあえず僅かな光を頼りに、俺はベッドに腰掛ける。
「……なあ、爾」
「なに?」
遊星は、やっぱり静かな声で言った。
「もう少し此処にいても構わないか?」
俺は首を傾げた。別に部屋にいるのは構わないが、遊星がここにいたがる理由が思いつかなかったのだ。
どうして、と尋ねる前に、聡い遊星は俺の疑問をくみとり、口を開いた。
「俺も、怖い」
いささか緩やかになったとはいえ止まない雨音の中で、不思議と遊星の声は通った。
無論俺は頷いた。
遊星は安堵したように笑うと、俺の隣へと腰を下ろす。
「俺のこと笑ったくせして、何だよー」
「雷や暗いのが好きな奴なんてなかなかいないだろう?」
「ちょ、俺の受け売り!」
すぐそばで笑う遊星の存在が、実はとてもありがたかった。
常夜灯がないというだけで不安がいっぱいだった小心者の俺を、遊星が気遣ってくれているのも気付いていた。
遊星が優しくて良い奴なことは知ってる。けれど、どうして遊星がこんなに親切にしてくれるのかは判らない。
――まあ、今は良いか。
深いことは気にせずに、遊星の厚意に甘えた俺だった。
断られたらどうしようかと思ったが、良かった
こんな嵐の中、お前をひとりにしておくなんてできないからな