“妖精の恋人”という者がおりました。
 リャナンシー。
 またの名を「妖精の恋人」。
 美しい女性の姿をしており、愛した人間に才能を与える代償に精気を奪う生き物。リャナンシーが見初めた相手にしか視認できないと言われる。

 代々他種族から婿養子を迎えて一族の血を繋いできた。
 しかしリャナンシーに愛される婿はどうやっても短命になる場合が多い。その為、婿養子として迎える際には自身がリャナンシーであると明かし、相手の同意を得ることが必須。拒否された場合は別れ、相手からリャナンシーの記憶を消去。新たな相手に出会うまで視認できない状態へと還る。

 ……と言うのも過去の話。
 少なくとも現代では、彼女の一族は力のコントロールを身につけた模様。誰にでも視認でき、対象にとり憑き続ける事はなく、対象が要求しない限り命に関わる才能を引き出したり与えたりという行為に及ぶことはまずない。

 だがカレッサの場合「見初めた相手にしか視認できない」という特性が強く出てしまった為、ろくに実家から出ることが出来ないまま育つことになる。
 ちなみに彼女は食事や睡眠を摂らずとも死ぬことは無い。だが弱りはする為、人間とほぼ変わらない生活習慣をとる。
 戦闘能力は人並み以上にはあり、妖精らしくふわふわ宙を舞う癖がある。
 しかしリャナンシーという種族柄、最大の強みは他者の強化、才能開花。既に才能を発揮している人物に対して行使すればパワーアップさせることができる。
 恩恵を受けるには彼女に想われていること・対象が彼女に僅かでも好意的な感情を抱いていることが条件となっている。後者のみの場合だったり、想いを微塵も寄せていない相手に才能開花を強要されたりしても強化自体は可能。ただし、大抵とんでもない代償が強要した対象にやってくる。他のリャナンシーの場合は強要された時点で相手を破滅させるため、マシといえばマシなのかもしれない。

 そんなことや他にも色々あり幽閉生活を送っていたカレッサの外界への憧れは日毎に増し、ヘルサレムズ・ロットが現れた時に感情が爆発した。
 想いのままに家を飛び出したは良いものの、誰にも存在を視認されないため外界の人間との意思疏通が不可能だった。
 それでもヘルサレムズ・ロットならば無条件で視認してくれる存在がいるはずだと死に物狂いでやって来る。

 しかし、長く街をさ迷ってもそんな相手は見つからなかった。
 もう自分には何もない――。
 遂に酷い絶望で道端に倒れ伏すカレッサ。
 その数秒後、ひょっこり現れた少年が、カレッサの運命を大きく動かし始めることなどは知る由もなかった。
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