口は災いのもと
「俺すげー事に気付いちゃったんですよ先輩」
「何だ?」
「本来経験しないはずの時間を、俺たちペルソナ使いは体感しているわけでしょ」
「そうだな。それがどうした?」
「人より多い時間を過ごすってことは……つまりそのぶん、人より老けるの早いってことじゃないですか!」
「あー、そうなるか」
「いやあああ! 怖い怖い! 禿げるの怖い! 弱る関節乾く肌! 霞む視界! 怖いよニーハイ穿いてられるレベルじゃねえよ!」
「今の時点でニーハイに恥ずかしさを覚えるべきだろう」
「うるさい! 今はいいの!」
「そうか。ん? ……その話どおりなら、美鶴はだいぶ老化が進んでいることになるな」
「ちょっ! 真田先輩! こういうネタに女性を出すのは……」
「失 礼 だ ぞ」

 不意に現れた桐条先輩から立ち上る怒気と迸る冷気に身の危険を感じた俺は、真田先輩を生贄に寮を飛び出した。
 一拍おいて聞こえたイケメンな先輩の絶叫。
 ――1月の冷たい空気と、背後の寮内から伝わる桐条先輩の怒りの余韻が、まるで肌を刺しているようである。
 俺は空を見上げ、呟いた。

「いやー、冬だねぇ」

 遠い雪国の真っ白な景色が、懐かしく思えた……。
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