ただ何となく、ぼー、と眺めていた。それはいつもと何ら変わりのない、寧ろ一軍に於いて恒例となっている、青峰と黄瀬の1on1だ。
練習の後にホントによくやるよなー、と思いながら、紫原はお菓子を頬張っていた。
1on1を終えた黄瀬は、「あー!くそっ!」と叫びながら、紫原の隣に座り、ゴロンと仰向けになった。疲れた様子で横たわる彼の息は上がっていた。
そんな黄瀬を横目に、紫原は「馬鹿みたいだ」と思う。どうせ勝てもしないのに全力で挑むなど、本当に片腹痛い。一軍に上がったばかりの黒子ほどではないが、見ていてイライラする。それでも何も言わないのは、今のところ自分に直接的な害がないからだ。けれども、そろそろいい加減に限界が来ていた。
「黄瀬ちんさー、何で峰ちんに勝てないの分かってるくせに勝負すんの?負けが見えてんのに可笑しいでしょ。必死になっちゃって、馬鹿みたい」
紫原が黄瀬の隣で彼を見下しながらそう言えば、黄瀬は一瞬目を丸くした後、クツクツと笑った。その様が、紫原はひどく気に入らなかった。
黄瀬はぐっと反動をつけて立ち上がった。
「まあ、確かに『勝てないなぁ』ていつも思うっスよ?そりゃそうだ、だってあの人はオレなんかには到底届きもしない場所にいるんスから。でも、次やるとき、本当に負けるかなんて分かんないじゃないスか。もしかしたら勝っちゃうかも知んないっスよ?オレ、今、なんかめっちゃ必死に頑張ってるから、すぐ追い付いちゃうかもしんないし」
「だぁーかぁーらぁー、その必死になってるっていうのがー、」
「『馬鹿みたいだ』、でしょ?まあ、端から見たら、そう思うのかも知んないっスね。でもゴメンね、」
面白可笑しそうに話す黄瀬はどこか楽しそうだ。
黄瀬は腰を屈めて紫原を覗き込むと、ニヤリと笑った。
「そういう『馬鹿』に、オレはなりたかったんス」
そう言ってふわりと笑った黄瀬は、それはそれは綺麗だった。
―――
中学時代の紫原と黄瀬のお話。こういう会話が1度くらいはありそうな気がする。
黄瀬の、「そういう『馬鹿』に、オレはなりたかったんス」ていうのは、何かに必死になりたかった、追い付けない存在に追い付こうとする努力をしてみたかった、っていうバスケに出会う前の頃に願っていたこと。