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コレの序章的な話
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「ユキオ!ユキオ!」
シャンデリアの光を反射して輝く金糸が眩しい。けれど、眩しいのはその金色の髪だけではない。一点の曇りもないその笑顔は、何よりも眩しいものだった。
ありふれた日常は
確かにあった
「おー。どうしたー?リョウター」
その日々は
美しく輝いていたのに
「うん、だっこ!」
「…抱っこ?」
「うん!」
無邪気に笑うその幼年の笑顔に、黒髪の少年の顔も綻ぶ。けれど、なかなか返事をしない少年に、幼年は不安そうに眉を下げて瞳を潤ませた。
「ユキオ…、やっぱり…ダメ…?」
上目遣い気味に見上げてくる姿は大変あざとく、可愛らしいのだが…。
「…んなわけねーだろ、このばかリョウタっ。おらおら」
「きゃーっ。やだやだーっ。ぐちゃぐちゃになるーっ」
「ほら!」
「わっ!」
髪を乱暴に、けれども優しく掻き撫でると、少年は幼年を思いっきり抱き上げる。突然抱き上げられたことでバランスを取れなかった幼年は、ぎゅっと咄嗟に少年の頭に抱き着く。そんな幼年をあやすように、少年はその小さな子の頭をそっと撫でて髪を解かしていく。
まるで兄弟のような二人は、誰が何処からどう見ても微笑ましいものだ。もっとも、二人の関係は兄弟などと言うものではなく、主従関係にあるわけだが。それにしたって、二人の仲が良いことは、自他共に認める事実である。
笑いあう
それはありふれた
当たり前の日常だった筈なのに
「副団長!副団長!」
バンッと勢いよく開け放たれた扉を、二人は注視する。入ってきた男は慌てた様子だった。
「やはりこちらにおられましたか。副団長、報告があります」
「何だ?」
黒髪の少年が問えば、男は「はい」と姿勢を正した。
「第一部隊より報告です。昨夜未明…」
男は報告書に目を通していたが、そこで幼年の存在を思い出し、あまり聞かせたくないために一度区切ると、ちらりと幼年を見た。金髪の幼年はその心情を理解したのか、抱えられたまま体の向きを変え、男に向き直る。
「話せ。そこまで聞いたんだ。戦地に赴いているカイジョウの第一部隊からの連絡であることぐらい分かる」
「これは命令だ」、そう言われれば、男は話す他ない。
「はい。…第一部隊より報告です。昨夜未明、何者かにより、」
その場に緊張が走った。二人が感じていることは同じ。悪い予感しかしない。
「団長が、…殺害されました」
二人は目を見開いた。体が硬直する。…悪い予感が…当たった…。
「団長が…!?」
「…ユキヒト、が…?」
嵐は突然
やって来る
***
「フッフッ、フッ、ハハッ、ハハハッ、ハーハッハッハッハッハッハッハッハッ、ハーハッハッハッハッハッハッハッハッ」
闇夜の中で、暗い影が高笑う。雷が怪しげに鳴り、光で影の足元が照らされる。そこは一面血の海だった。中には見るも無惨な人だったものもあった。
影は、怪しく笑みを浮かべた。
***
悲劇はその時
既に始まっていた