とある放課後の夕暮れのこと | ナノ



*11月中旬くらい(?)

―――


「なあー、真ちゃん、」


放課後練習の無いテスト期間。最寄りの図書館で緑間と高尾が共に勉強をし、一通りの範囲を終えて帰宅している途中のこと。

緑間の右手側にいる高尾が彼に声をかけた。


「何なのだよ」


英単語帳に視線を落としていた緑間が、怪訝そうに高尾に視線をやった。

相変わらず前を向いたままの高尾。いつもドリブルやパスをする手は、今は後頭部で組まれている。緑間のように、こういう時間に勉強をしようとする気はないようだ。

バスケにはそれなりの人事を尽くす奴なのにな、と緑間は思う。


「いや…、ほら、昨日の。宮地サン、一人居残って練習してたじゃん?」


それは昨日のこと。放課後練習を終え、部室にて高尾が緑間に数学で分からないところを解説してもらい、いざ帰ろうとした時の話だ。

ふと体育館を通れば、そこには、居残り練習をしていた三年のレギュラーである宮地がいた。直後に来た主将の大坪の話によれば、それは“いつものこと”だそうだ。


「放課後練はちゃんとやったし、テスト期間は居残り練は禁止されてっから、その後自主練することとか無かったけど、あれ見て…なんか、こう、さ、思ったんだよ。オレももっと、今以上に努力しねーと、って…」

「………」

「やっぱさ、『キセキの世代』の奴等も…あんな風だった?それとも、それ以上に凄かった?」


「キセキの世代」の話を振られて、緑間は一瞬過去に思いを馳せる。

ストイックに自身を鍛え続ける赤。

文句を言いながらも真剣に練習をする紫。

無邪気にただバスケに打ち込んでた青。

そんな青を無我夢中になって追いかける黄。

ひたすら自分だけのスタイルを磨き上げる黒。

今思えば、どいつもこいつもただのバスケ馬鹿だった。そしてそれは、何だかんだで自分も例外ではないのだろう、と緑間は思い、息を吐き出す。


「そうだな。どいつもこいつもバスケしか見えていなかった。

曲者揃いの『キセキの世代』を纏め上げてた赤司は、誰よりもストイックに練習をしていた。

バスケが嫌いだと言う紫原も、負けるのは嫌だから、と練習は常に真面目に取り組んでいた。

圧倒的な実力を誇る青峰は、それこそただのバスケ馬鹿だった。アイツは才能が開花してからは練習はしなくなっていったが、それでもいつもバスケと共にあった奴だ。

そんな馬鹿に憧れた馬鹿もいた。黄瀬は中二でバスケを始めたが、始めて二週間で一軍昇格。オレ達以来のスピード昇格だったが、初心者のそれは前代未聞だったそうだ。一軍に上がってからも、毎日遅くまで青峰と1on1をして、誰より必死にバスケに打ち込んでいた。

黒子も、最初は三軍で燻っていたが、青峰と出会い、赤司に才能を見出だされてからは、その才能を無駄にすることなく磨き続けた。文字通りにな。普通のセンスは無かったが、それでも努力は一切怠らなかった。

全員、才能だけでなく、努力もしてきた。人一倍。誰よりも」


何だかんだと言いながらも、彼等のことを認め、信用してきたのだな、というのが高尾にも読み取れた。そこに信頼があったかどうかは分からない。でも、全く無かったわけではないだろう、と高尾は思う。


――やっぱ「キセキの世代」も、才能だけじゃなくて、人一倍の努力をしてきたから天才なんだよな。ま、そんなの真ちゃん見てれば分かるけど。


じっと横目に緑間を見ていた高尾は、視線を前に戻すと軽く息を吐き、肩を竦めた。


「んーで、真ちゃんもずっと3Pを極めてた、ってね」


付き合いは「キセキの世代」と比べたら圧倒的に短い。まだ知り合って7,8カ月しか経っていない。それでも、緑間が誰よりも努力しているのを高尾は知ってる。緑間に認めさせるために、彼より練習すると決めて、共に戦ってきたのだから。


「真ちゃん、」


もう一度高尾は緑間を呼び止める。今度はしっかり足を止めて緑間を見て。

緑間も、何となく高尾が真剣な様子なのを読み取り、立ち止まって彼を見る。

認めさせるだけじゃない。高尾には今、もう一つ別の目標がある。


「WC、絶対優勝しようぜ」


口角を上げる高尾。

WCで優勝するのは、簡単なことではない。黒子を含め、「キセキの世代」が全員出場するのだ。絶対勝利の赤司、不動のDF力を誇る紫原、最強のエース青峰、異常なまでの成長を遂げる黄瀬、パスだけでなく自分達を抜いて見せた黒子。更に、圧倒的な飛躍力をもつ火神。そんな強敵達との戦い。

緑間がそれでも負ける気がしないのは、自分の実力に自信を持っているから。それと…


「ふん、当然なのだよ」


緑間は眼鏡のブリッジを直す。

それと、多分、この隣の男を信頼しているからだ。最初は軽率そうな男だと思ったが、自分に己を認めさせるために努力をするという高尾に、少なからず興味を持った。し、最初の印象は拭われた。

こいつと、秀徳の部員達と、共に日本一を取る。それが緑間の今の目標だった。


「高尾、この後ストバス行くぞ。付き合え」

「へいへーい。そのつもりですよ、っと」


同じ目標を持つ緑間と高尾。相棒と、チームメイトと共に、秀徳という一つのチーム一丸となって勝利すること。その為になら、プライドだって捨てられる。

二人は再び歩き始めた。日本一へと、駈け上がる為に――


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