恋は、相手のことを知りたいという欲求から生まれるらしい。やはり俺も例の如く、隣を歩く金髪の野郎のことが気になって仕方がない。そんなことは露知らず、黄瀬は相変わらず無駄に整った顔で周りに笑顔を振り撒き続けている。何のアポも無しで神奈川からやって来たこいつに、俺は本当は何を考えているのだろうかといまいち意図が掴めず頭を悩ませることしかできず。キョロキョロしながら歩いている黄瀬の瞳は、いったい何を映しているのだろう。目の前に広がる夕焼け?向かいで尻尾を振っている子犬?
「火神っち、そんなにじっくり見つめないでほしいっス」
照れちゃうんで、と続ける黄瀬に「ああ、悪ぃ」と返事をすると、黄瀬は意外そうな顔をしてまじまじと俺を見た。無防備ににこにこと笑い掛けてくる顔がやけに近くて、冷や汗だか何だか分からないものが背中を伝う。この際だ、白状しよう。俺はドキドキしている。まるで、好きな女の子と始めてのデートに繰り出そうとしている男子中学生かのように。いつから自分はこんなに脆弱な人間に成り下がったのだろうか。
「火神っちが謝るなんて、変なの!あんた、偽物かなんかっしょ?」
笑いながら顔をずい、と近付けられ、同時に前髪を鷲掴みにされた。痛い痛いと言って顔をしかめると、本物だとまた驚かれる。ぱ、と手を離した黄瀬の手には二、三本の赤い毛がくっ付いていた。おい馬鹿、いい加減にしろ痛いだろ。溜め息が呆れたようにも称賛しているようにも聞こえる。既に答えの出ていることに関して無駄な考察を張り巡らせるのは人の成す所業の賜物だとタツヤに聞いたことがあるが、あながちそれも間違いではないようだ。
「黄瀬、お前俺のこと嫌いだろ」
「なんで?大好きっスよ」
「…俺がせっかくお前のこと理解しようとしてんのに、お前よく分かんねえし、しかも髪の毛抜くし」
「火神っちって、俺のこと知りたいんだ?」
「悪いか?」
「別に悪いなんて誰も…っ」
黄瀬は並んで歩くのを止め、前だけを向いてずんずん歩き始める。夕日のせいかもしれないし、別に理由があるのかもしれないけれど、その頬が恋を知りたての女の子のように仄かに染まっていた。緩やかに熱を帯びていく様子を見届けていると、ばち、と一瞬だけ視線がぶつかった。瞳はすぐに反らされてしまったけれど、その一瞬がどうしようもなく愛おしくて、そして彼という人間を如実に再現するそれをどうしても見たくて、細い顎をくい、とこちらに引き寄せることで果たした。恋は、相手のことを知りたいという欲求から生まれるらしい。俺は、恋が触れる音を始めて聞いた気がした。
∴こっち向いてハニー
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紫苑様、ありがとうございました!