*年齢操作
「禁煙」
冷たく言い放ち、溜め息をひとつ。扉が閉ざされる音がして、一瞬明るくなった部屋が再び闇を飲んだ。コツコツ、と聞き慣れた黄瀬の足音が響く。振り向き様に煙草を口から離し、彼の無駄に整った顔面目掛けて煙を吐いた。黄瀬は咳き込み、口元を手で覆いながら涙目で俺を睨む。――この顔が欲しかった。たまんねえ。悪趣味だと思われても、黄瀬のこの表情はいつ見てもぞくぞくする。
「青峰っち、禁煙」
もう一度そう言い、再度黄瀬は煙草をくわえた俺に向かって腕組みをした。煙たいこの空間の中で、黄瀬の白い肌と派手な金髪だけが眩しくて、何とも言えない感情に胸が焦がれる。組んでいた足をほどいて、気紛れに黄瀬の腕を引いた。咄嗟に身を固め、どうしても動こうとしない意地を見せる黄瀬に、ついニヤリとしてしまう。暗闇に長く煙を吐いて黄瀬が噎せる原因をつくった。げほげほと顔を背けた彼の腰を引き寄せ、椅子に座った俺の両足の間に座らせる。バランスを崩して倒れ込み、黄瀬は俺の肩に手を置いた。そして勢いのままに口付けを。
「……煙いし臭いっス」
唇のみの接触だけで強制終了させ、黄瀬は腰に回っている俺の腕をほどこうと躍起になっている。煙草は嫌いっスよ、と愚痴を溢すから、わざとらしく首を傾げてみせた。
「煙草を吸う俺のことは、」
好きなくせに、な。
続きは口の動きだけで伝える。どうやら意味を理解したらしい黄瀬はかっと頬を染めて、分かりやすいくらい肩を怒らせた。
「煙草吸う青峰っちは嫌いっスよ…だから禁煙して」
子どもを叱る母親のような言い方をするから、またそれも堪らなくてますます禁煙なんてしたくなくなる。試合で駆使する方とは反対の腕で煙草を持ち、細い腰を抱き寄せた。歯でネクタイを引っ張って黄瀬を見上げると、呆れた表情で溜め息を漏らした。もちろんその口からは煙など出てはいない。
「……吸った後はしたくないっス」
だから今夜はお預け、なんて。
「口寂しいんだよ」
誘うような口調に内心くらりと心地よい目眩を感じながらも、拗ねたような態度で返事をする。俺は、黄瀬が俺のこんな言い方に弱いことを知っている。
「お前とキスでもできればさあ」
「しないっスよ、臭いから」
「んじゃ吸うわ」
煙草を口に挟み、じっ、と目立つ金色を見上げる。俺が禁煙できないのはお前のせいだとでも言うかのように。黄瀬は、押し黙ったまま俺の口から煙草を引き抜き、椅子の肘掛けに擦り付けて火を消した。
「禁欲までしたいんスか?」
悪戯に微笑みながら黄瀬はそれだけ言い、少し屈んで俺の額にキスを落とした。
黄瀬は知らないからな、とひとりごちる。俺が煙草を手放すことができない理由。自分を汚すことであいつの綺麗さを余計に感じることができるから、なんて。俺が強くそう思っていることを。
∴下手くそなラブソング
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紫苑様、ありがとうございました!