ベストポジション | ナノ



*青+黄だけど青黄風味
*大学二年生
*同大・学部学科・部
*呼称変更有り
*あまり誕生日関係無い
*8月31日は夏休み?特別講義ということにしてください

―――


今日は8月31日。オレの20回目の誕生日だ。





唐突だが、オレと黄瀬は同じ大学の同じ学部学科に在籍していて、同じ部活に所属していて、更には同じ寮の部屋に住んでいる。まず最初に言っておこう。これらは決して話し合って合わせたわけではない。断じてそんなことはしていない。これらは本当に偶然そうなっただけだ。

元々オレは日本一の体育大学であるこの大学に進学するつもりだった。そして一方の黄瀬は、高校卒業後の進路は大卒というステータスは今時必要、ということが頭にあったらしく、常より大学進学は考えていたそうだ。しかし、高校を卒業した後、特にしたいことがあるわけではなかったらしく、進学先を決めあぐねていた。経済学?法学?医学?心理学?教育学?理工学?社会学?どれも黄瀬のお眼鏡には敵わなかったようだ。そんな中、沢山ある大学資料の中で黄瀬の目についたのは体育学部だった。元々体を動かすことが好きだったアイツは、他の学部よりも体育学部を選んだ。そしたら後はなし崩しだ。体育学部のある大学――というよりは体育大学を探して、地域やら特色やら何やらを調べて、自分に合った大学を選ぶ。そうしてアイツは進学先を以外にも早く決め、見事AO入試で受かってみせた。生憎、オレも黄瀬も運動好き、東京住み、バスケ馬鹿、と、共通点はかなり多い。気が合うと言うか何と言うか。つまり、オレと黄瀬が同じ進路になったのはなるようにしてなった、と言うことだ。因みに寮の部屋が相部屋になったのは、オレと黄瀬が旧知の仲だからとか何とかと言う噂を聞いたことがあるが、実際のところは分からない。しかし、こればかりは本当の偶然だと信じたい。

中学の出会いから7年――今はもう8年目に突入したわけだが――、あれから変わったことは殆ど無い。強いて挙げるとするならば、年齢が20歳になったこと。それに伴い、見た目も大人らしくなったこと。そしてもう一つは、お互いの呼称が変わったこと。オレは〈黄瀬〉と呼んでいたのが〈涼太〉に、黄瀬は〈青峰っち〉と呼んでいたのが〈大ちゃん〉になった。何で大ちゃんなんだ、と思わなくもないが、これにもちゃんとわけがある。まあ、ある意味オレの我儘のせいでもあるが。

呼び方を変える際、まずアイツが提案したのが〈大輝君〉だった。それに対してオレが、「お前灰崎のこと『ショウゴ君』って呼んでんじゃん。なんかそれみたいでムカつくから他の呼び方にしろ」と反対した。「普通に『大輝』でいいだろ?」と言ったら、「青峰っちを呼び捨てるとか、絶対出来ないっス」とアイツは呼び捨てを拒否した。じゃあ他に何て呼ぶんだよ、となって、「じゃあ私と一緒で『大ちゃん』でいいんじゃない?」と言うさつきの提案により〈大ちゃん〉で決定した。

そもそも何故呼称を変更する羽目になったかと言うと、同じ学部学科の奴に、「何で5年の付き合いがあってお互い苗字呼びなんだよ?中学からなら尚更変に思うんだけど。普通名前の呼び捨てとか、愛称呼びとかだろ?」と言われたのがきっかけだ。ぶっちゃけ、そんなことはないと思う。〈キセキの世代〉と呼ばれるオレ達は、お互い(ほぼ)――独特の愛称で呼ぶ奴等もいたが――苗字呼びだったからだ。其故、お互い苗字呼びに違和感はなかったし、寧ろ自然に思っていた。が、案外周りから見たらそうでもないらしい。「じゃあこの際だし、呼び方変えよっか」と昨年の夏にお互いの呼称が変わった。始めこそ違和感バリバリだったが、慣れれば何ともない。今では自然と今の呼び方が定着していて、寧ろ昔の呼び方がむず痒く感じるくらいだ。

そんなこんなで、年齢と見た目の大人らしさと呼称以外変わったところが無いオレと黄瀬の付き合いも、もう7年。早かったな、と思う。しかしそれ以前に、オレは今日で20歳だ。20年なんて案外あっという間だな、と感嘆する。特にこの8年――オレの人生の5分の2は、本当に早かったような気がする。

帝光中に入学して赤司と緑間と紫原と出会い、同年秋にテツと出会い、さらに中学2度目の春に黄瀬と出会い。高校こそバラバラになったものの、お互いにしのぎを削り合う良き好敵手であった。喜びも苦しみも、全てアイツ等と経験してきた。その中心は主にテツだったと思うが、黄瀬も同じぐらい中心にいたような気もする。テツとはバスケでの相性は最高だったが、他はさっぱりだった。その点黄瀬はバスケでの相性もよく、日常生活でも結構気が合っていたと思う。いや、実際合っていただろう。人付き合いの上手いアイツだから、尚居心地はよかった。適度で絶妙な距離感で付き合ってくれるアイツは、一緒にいて気がおけない。本当にいい関係だった。

ただ、この関係は何と呼べるものなのだろう。

中学時代はいい友人だったと思う。部活では後輩みたいで、普段は親友みたい――実際親友では決してないが――で。高校時代はやはり、良い…いや、最高の好敵手だった。じゃあ今は?親友と言うには近すぎる気がするし、かと言って恋人では決してない。男なんて願い下げだ。アイツにとってだってそうだ。じゃあ、相棒?そんな感じは全く無い。テツといるときのような感じは、黄瀬といて一切無い。理解者と言う感じでもない。オレにとっての理解者はさつきだと思う。

じゃあ今の関係は、一体なんだと言うのだろうか。そうやってオレが頭を悩ませていると、「なーにやってんスかっ?」と頭上から何とも明るい声が聞こえてきた。


「うっせぇよ、涼太」

「声かけただけじゃないっスか、大ちゃん短気過ぎ」


首を上げて見上げてみれば、そこにはやはり黄瀬がいた。キラキラと太陽に照らされて光る金糸のような髪は、サラサラと風に揺れている。相変わらずムカつくくらい綺麗な面してやがる。


「こんな所に座り込んで…、次の講義遅れますよ?」


そう言って黄瀬はオレの前に座り込んでオレを見上げてきた。コイツは年を取る毎に――いや、日に日に綺麗になっていってる気がする。元々整った顔立ちをしていた黄瀬だが、中学の時と比べて幼さが完全に抜け、けれども美しさは更に磨きがかかったようだ。高校でバスケ部を引退した頃からモデル業に一層従事するようになったそうで、今では俳優業もこなしていたりする。現在でも、火曜夜9時からの学園ドラマの主要人物の一人を演じているし、某有名スポーツ飲料のCMにも出演している。更には、たまにバラエティーにも出るようになった。益々綺麗になって、益々人気が上がった黄瀬。けれども、雑誌やテレビで黄瀬を見るような奴等は、黄瀬の表情を知らなさすぎる。それは例えば泣き顔だったり、怒った顔だったり、無邪気な笑顔だったり。多分、世界中の誰よりも、オレが一番黄瀬の表情を知っていると思う。同時に、黄瀬自身のことも。

覗き込む顔は、不思議そうにこちらを見ているが、それでも少し心配そうな色をしている。多分、オレじゃなきゃ気付かない。それほど些細な感情だった。だからオレは、自分より下にある頭をくしゃっと撫でて、安心させるように笑った。


「んじゃあ、行くか」


そうすれば、コイツはぱあっと花が咲いたような笑顔で、はい!と言うのだ。

二人同時に立ち上がり、次の講義が行われる校舎へと向かう。勿論、オレの左隣には黄瀬がいる。


「ね、ね。講義終わったら、どっか行きません?今日部活ないし、折角の大ちゃんの誕生日なんスから」


キラキラとした瞳は、オレだけに向けられるもの。


「いーけど、何処に……カラオケは無しな、この間の合コンで行ったし」

「えー。じゃあ大ちゃんは何処に……ストリートこそ、毎日部活やってんスから無しっスよ」


言葉を交わさずとも、お互いが考えていることなど顔を見れば分かる。バスケする時のテツ以外でそんなこと出来るのは黄瀬くらいで。


「チッ。じゃあ、涼太ん家。久々にお前の飯食いてえ。丁度昼時だし」

「いいっスよ。じゃあ、その前に食材買わないと。付き合ってくれますよね?」

「しゃーねーなあ」


そうやって呆れた表情をしながらも、また頭を――今度はぐしゃぐしゃと撫でる。こうやってオレが甘やかすのも黄瀬だけで。

名前のないオレ達の関係。一番近い表現は親友だと思うけど、生憎オレも黄瀬も、お互いよりテツと仲良いと思ってるから親友ではない。保護者…は少し納得出来る気もする――何と言っても、普段の行動ではオレが黄瀬に面倒を見られていて、精神的にはオレが黄瀬の面倒を見ているようなもだから――が、流石にそれは無いわ。本当に一体何だろうか。


「なあ、涼太」

「? 何スか?」

「オレ達の関係って何だと思う?親友じゃねーのに近すぎるようなこの距離感。だけど自然で心地良いこの関係。一体何て言うんだろうな」


オレがそう言えば、黄瀬は面食らったような表情をした。悪かったな、らしくなくて。でも黄瀬は、驚いた顔をした後直ぐに口元を緩めて笑った。


「もしかして、さっきそんなこと悩んでたんスか?」

「悪かったな、らしくなくて」

「いーえ、」


別に悪くないっスよ、確かにらしくはないけど。そう言うと、黄瀬はくるりとオレの前に回り込んで足を止めた。当然オレも足を止めざるを得ない。黄瀬は笑っていた。相変わらず、キラキラとしている。


「大ちゃん、そういうのはですね、」


黄瀬は太陽のような笑顔で言った。


「『        』って言うんっスよ」


ああ、納得。

その言葉は、ストンとオレの心に落ちた。

出会った時から今日まで、そしてきっとこの先も、友達以上恋人未満みたいなこの関係は、ずっとずっと続くのだろう。だってこの距離が、何よりも心地良いのだから。

偶然だったとしても同じことを考えるとこも、手に取るようにお互いの心境が分かるとこも、お互いにだけ向けられる唯一も、全部全部、この絶妙な距離感にいるオレと黄瀬だからいいのだろう。


「大ちゃん、大ちゃん、」


再び歩きだした足を止めることはせずに、黄瀬はオレに呼び掛ける。


「何だよ」


言わんとしてることは分かるけど、一応な、一応。


「えへへ。朝から何度も言ってるっスけど、誕生日おめでとう、大ちゃん」


花のような笑顔で言う黄瀬を見ると、どうしたってオレの隣にコイツがいることに優越感を感じるのだ。


「ホント、言い過ぎ。ま、サンキューな、涼太」


多分これからも、この絶妙な距離感でオレ達は付き合っていくのだろう。親友と言うには近すぎる、相棒と言うにはまた違う、理解者と言うのも少し違う、けれども居心地が良くて、これから先もずっとこの距離感で付き合っていきたいと思う、この関係で。

気が合いすぎるオレ達は、




(大ちゃん、そういうのはですね、)

(『ベストポジション』って言うんっスよ)



―――

with 1on1!(青黄青企画)様に提出。素敵企画に参加させていただき、ありがとうございました!

もうすぐ青峰誕ということで誕生日ネタだけど、前書きにある通りあまり誕生日関係無いです; 申し訳ない;;

8月31日は皆で青峰の誕生日を祝いましょう\(^O^)/


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