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 夢百合草 06

伝わらないのを承知で、彼の意見を聞いてみることにした。

襖の前に立つその服装は、お世辞でも日本家屋には似合わないものだ。

その身長は私より、継父よりも高いけれど、母から聞いていたような大体の異人がそうというくらいの大男ではない。


あの、と恐る恐るその人の前に立つ。


「異人さん、具合が悪いのならここを使ってくれて構わないんですけれど。
もしよかったら、ですが…。
どうされますか?」


部屋の真ん中に敷いた寝具を手の平で示す。
蒲団の上に掛けた夜着を分かりやすいように少し捲っておいた。

寝具の様子は違っても、横になることは分かってくれるだろうと期待する。


そしてまた、何度目かの 少しの沈黙。


異人さんの中には日本語を少し理解する人もいるそうだけど、この人はどうだろう。

床の上の敷物を伺っているみたいなその瞳を、私も探るように見つめる。



『…休ませてくれるというなら有難いが。
生憎今の俺にはこのわけの分からん土地を放浪する体力もない…』


何かを言った後、不意にその腰に付けていた箱を外していく。

それを見てホッとした。

よかった、休んで欲しいというのは伝わっているようだ。
装備を解いているということは出島には後で帰るという理解でいいんだろうか。


その髪もまだ濡れている。
歩きながら多少は落ちた砂も、まだ所々服にも付いているようだった。

海水でまだ濡れたままの自身の全身を見下ろしたあと、その人は私に目を向けた。

…横になるのなら、それもどうにかしないと。


『その前にこれをどうにかしたい』


耳慣れない音、聞いたこともない言葉の強弱。
日本語にはないその発音。

ぐっしょりと濡れたシャツをつまみながら言うその言葉は、なんだか分かる気がした。
きっと私とその人はその時全く同じことを思っていたはずだ。


その表情を見てピンと来た。

お風呂。

お風呂に入りたいのかな。


その服も洗って。

海水は独特の匂いがあるので早く洗った方がいい。
足を滑らせて海で転んだ弟の着物を放っておいたら大変なことになったのを思い出していた。

風呂の準備には少し時間がかかる。
水を張って木材を焼べて。

海水を飲んでいるならそれのせいで気分も悪いのかも知れない。
まずはお水を飲んでもらって…、
何か食べた方がいいんだろうか。

米も野菜もある、雑炊とか食べられるかな。

あ、でも日本食って口に合わないかも…。


少しの間にまず何をすべきかを頭の中で考える。
母はいつも忙しく私がほとんどの家事をこなしているので、もしかしたら私の方が母よりこの家のことを分かっているかもしれなかった。


そのとき、がたがたと玄関の重い引き戸が開く音がした。


「ただいまー…、うわっなんだこれ!姉ちゃん!?」


弟。


丁度手が足りないと思っていたところに!


「あっ、あの、弟なんです。ちょっと待っていてくださいね!」


異人さんに断りを入れてから。
その声を聞いて、ぱっと玄関へ駆け出した。



  


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