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 夢百合草 02

波間で光ったのは、その人の横で同じように流れ着いていた金属だった。

黄昏時の赤いとも橙ともつかない色の中で、波にさらされて浜辺に倒れているその体は、遠目から見てもぴくりとも動かない。


「大丈夫ですか!?」


少し坂になっている浜辺の道を降りて意識がないその人の元へ駆け寄る。
先ほど見えた光る金属は、近くで見ると刃物のようだった。

うつ伏せに倒れるその男の人は全身濡れそぼって、その夜闇のような黒い髪にも砂が付いてしまっている。

その男性の外見を見てはっとした。

この服装。

見慣れている着物ではない。

上下に分かれた服で、上半身は茶色い上着、下には足を通す形の白い服を着ている。
履物も膝上までの長いもので、材質は分からないけれど水分を含んで黒く見える。


「あの、聞こえますか!?」


焦ってその肩に手を当てて揺り動かしてみるが、反応はない。
触ったことのない素材の茶色いその服は、鞣した獣の皮にも似ている。

ど、どうしよう、返事はない。

息はある。
まだ生きてる…!

その顔がまだ寄せる波に晒されるのを見て、咄嗟に仰向けにしてから波の届かない浜辺まで引きずった。

その体に触れると見た目とは違い結構がっしりとしていて、体重差もあり時間がかかってしまう。

途中で放り出した風呂敷のところまでその体を一生懸命引きずってから、ようやくその顔をしっかりと見た。

この顔立ち。
向こうから見えたときには黒髪だったからつい日本人だと思ったけど。

つんと鼻筋が通って、薄くて形の綺麗な唇。
堀の深い目鼻立ちは見るからに日本人のそれではない。


…異人さんだ。


閉じられた瞼からは力が抜けていて、でも苦しそうな素振りもないのでほっとした。
じっと見つめていると、微かにその瞼がぴくりと動いたような気もした。
髪の色と同じ色の睫毛も黒色だけれど、日本人の漆黒の黒髪とは違って見えた。


ぽたぽたとその髪から流れる水と、顔に付着した砂を軽く手で拭う。

長崎港の船から何か事故で落ちてしまったのだろうか。

ここから出島までは目と鼻の先だ。
服装から見る限り、軍人さんかな、と思う。
出島にはオランダから医師も学者も軍人も来るそうだから。

茶色い上着に縫い付けられている白と黒の何かの絵が刺繍されている紋章はきっと所属している軍隊のものだろう。
腰に付いている左右の鈍色の四角い箱も、何かの武器入れに見えなくもない。


出島の役人に知らせなくては。
それとも、お医者さんに見せるのが先だろうか。



  


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