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 夢百合草 18

結局母が褥へ入ってきたときも背を向けて横になってはいたけれど、まだ目は覚めていた。

しん、と静まり返った家の中。

ただの考えすぎかもしれないけどなんだかいつもとは家の雰囲気も違っているような気もした。

同じ屋根の下にあの不思議な色をした瞳のあの人がいるのだと思うとやっぱりそわそわと落ち着かない。


楽しみという感情が正しいのかどうか。

不安と、早く色んな事の答えを知りたいという欲求が入り混じったような感情を覚えた。

母の寝息も聞こえた後でやっとウトウトとしかけたけれど、朝日が昇ると自然と瞼が開いてしまった。

一瞬ぼんやりと瞬きをして、なんだっけ、なんで朝が待ちきれなかったんだっけと記憶を探る。

次の瞬間にリヴァイさんのことを思い出した。

なんだか夢でも彼を見た気がする。
夢の中で彼は日本語を話し出したような…。

正夢なはずはないけれど、そうだったらいいなと淡い期待を抱いて身を起こした。

自分の分の蒲団を上げて、母と雪を起こさないように身支度を整える。


リヴァイさんはまだ起きていないとは思うけど。

静かに襖を開けて、いつものように朝餉の用意をするため炊事場のある土間へ向かった。


かまどに火を入れてお米を水に浸して鍋に入れる。
窓を開けると、すこしひんやりとした秋の風が舞い込んできた。


リヴァイさんの分はまた雑炊のように消化が良いものがいいんだろうか。
お米を分けて、そっちの方だけ水を多めに入れる?
それとも日本らしい食事は嫌だろうか。

雑炊の感想を聞きたい。

どうしよう。
何を朝食にしてあげればいいんだろう。

余分の米を入れた椀を持って決められずに立ち竦んでいると、後ろから声が聞こえた。



「…何してんの、姉ちゃん」


その固まった姿勢のまま振り向くと、居間へと続く廊下から雪彦が顔を出していた。


「あ、雪、おはよう。
異人さんの食事で迷ってるんだけど…何がいいと思う?普通のご飯でいいのかな」


かまどの前を行ったり来たりしながら聞いてみても、雪彦は眉を少し上げるだけだ。

…こっちは本気で悩んでるのに。


「まだそんなこと言ってんの。なんでもいいと思うけど」


ふぁ、と雪彦は寝衣のまま大きな欠伸を一つして居間へと入って行った。
「嫌なら食べないだろ」、と言い残してその姿が完全に見えなくなった。


そうなんだよね。
そうなんだけど。


それでもあれこれ考えてしまって結局雑炊と普通のご飯が炊きあがった。

残りの野菜で手早く味噌汁も用意する。

昨日母が持って帰ってきてくれたらしい魚の包みを台の上で見つけて、それを焼きだすと家中に香ばしい朝餉の香りが広がった。

魚を焦がさないように気を付けていると、不意に廊下の向こうで襖が開いた音がした。

その音はすぐそこの、居間の方の廊下から聞こえた。
まさにそこは客室があるところ。


あ…、リヴァイさん…!


と思って振り返ろうとするけど火元からは手が離せない。

手が離せないのでリヴァイさんの様子を見てからもらう為に呼びかけようとして、止めた。

耳に届いたのは二つの足音。

廊下をこちらへしっかりとした足取りで歩いてくるものと、それとは違う軽い足音が居間から廊下へと出て行く。

後者の方はきっと雪彦だ。


よかった、雪彦もリヴァイさんが出てきたことに気づいたみたいだ。


何か話しているような声もするけれど、なんだろう。
あまりよく聞こえない。

少しした頃、雪彦が土間へと駆け降りてきた。


…?


その手は迷うことなく食器入れから湯呑を取り出して飲み水を注ぎ、そのまま踵を返す。
何か聞きたげな私の表情を一瞬振り返って、

「水が飲みたいんだってさ」

とだけ言って、元来た廊下を戻っていった。


昨日も思ったけど、雪彦。
なんだか頼もしい。

今の所は雪彦に任しておけば大丈夫そうだ。


私はとりあえず皆の分の食事を用意しようといい具合に焼けた魚とご飯、お味噌汁なんかを一つ一つのお膳にそろえた。

リヴァイさんの分はご飯の代わりに雑炊を装った。



  


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