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 夢百合草 11

さも面倒くさい、という雰囲気を大いに醸し出しながらも雪彦は板敷きの床に上がり、足音を響かせて廊下へ消えていった。

お風呂屋さんの混浴も私はあまり好きではないので、異性の肌をじっくり見る機会も趣味もない。
周りの子たちはそんなことも気にせず、庭先でもほとんど裸の状態で水浴びするような子が多いから私は少数派らしい。

きっと若い男の人の、しかも普通なら滅多に会う事のない異人さんの肌ということで珍しかったんだろうと自分で無理矢理答えを急いだ。


雪彦の分には余分におかずを付けて、瓜を食べやすい大きさに切り分け三人分のお膳を用意したところで、二人が廊下へと出てきたみたいだった。


「姉ちゃん、こいつ顔色悪いから寝かせた方がいいかも。
客室を貸すんだろ?ほら、こっちだよ」


やっぱり…。

具合が悪いままお風呂なんかに入ったので更に気分が悪くなったのではと心配になった。

そうかと思って彼の分の食事は部屋に持っていくつもりだった。
海水を飲むと胃が荒れるというから彼の分の食事は余計に煮込んだ分にした。


別の椀に飲み水も入れて、そのお膳を持って土間を上がる。


客室に入ると雪彦が異人さんを寝かしつけようとしているところだった。
そういえば拾ってきた猫なんかもこの子は甲斐甲斐しく世話をしていたなと思い出す。
家族や近所からは昔から末っ子の小さい子として可愛がられているけど、本人としては自分が面倒を見れる存在が欲しかったのかもしれない。

異人さんは呆れたような表情で、でも雪彦の心配が分かっているのか大丈夫だというように寝転がりはせずに夜着を捲った蒲団の上に座り込んでいる。


継父の紺色の着物はよく似合っているみたいだ。
まだ少し濡れたままの黒髪は、さっきまでの海水で濡れていたときとはちがってさらさらとして見えた。
髪も体もさっぱりとしたようでよかった。


雪彦に着方を教えてと言ったのにその胸元は既に少し肌蹴ていた。
またその肌の色に一瞬どきりとしてしまう。
なんだか色気のようなものを感じてしまって、それに無理矢理気付かないふりをして寝具横にお膳を置いた。

その顔色は確かにまだいいとは言えないけれど、海水で全身ずぶ濡れのときよりは寛いだ雰囲気を纏っていて、気分的にもよくなったようだった。


雪彦に多少押されているようなその光景に思わず頬が緩みつつ、私もその場に膝を折った。


「姉ちゃん、こいつ絶対軍人だぜ。こんな近くで初めて見たよ俺」

「しー、雪、この人具合悪いんだから大きな声出さないの」


寝かしつけようとしているのか押し倒しているのか分からないほど、近くでその顔を覗き込んでいた雪彦の手を引いて、正座した自分の横に立たせる。

改まって目線を合わせた私を、青いような灰色のような瞳が映した。


「異人さん、自己紹介が遅れましたが…私はナツといいます。こっちは弟の雪彦です」


まだ不思議そうな顔をするその人に、雪が自分と私を指しながらもう一度それを繰り返す。

人に指は指しちゃいけないって教えたはずだけど…ここは多めに見よう。


「ゆ、き!俺が雪!こっちが姉ちゃんだよ、ナツって言うんだ」


雪が何度かそうして名前だけ連呼すると、異人さんのその目が意味を解したようにふと落ち着いた気がした。


あ……

伝わった、のかな。


その表情が変わった気がしてもう一度口を開いた。


「異人さん。体調が戻るまで、大したものもないですがうちにいてくださって構いません。
ただその間、異人さんと呼び続けるのも気が引けるので…お名前だけ、教えていただけませんか」


こうして言葉を並べても伝わらないのは百も承知だ。
もう一度、さっき雪彦がしたみたいに着物の上から自分の胸に手を当てて名を名乗る。


「私、ナツ、です」


次に雪彦を抱き寄せるように両手でその体を両側から掴んで「雪、です。ゆき」と、聞こえやすいように、分かりやすいようにゆっくりと発音する。

最後に、異人さんの方へ軽く促すように手の平を向けてみる。



「異人さん。お名前は……?」





  


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