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 ロスマリナス 18


……なんだと?




その言葉を理解できずにいる頭に、
もう一度だけその甘い香りが届いた



甘くて、柔らかいような…
懐かしい、その香り





途端に脳裏に蘇るのはガラス片のような映像の断片

今より少し髪が短いあの女の顔

馬に乗りその操り方をこちらを振り返りながら聞く姿


その馬は、あの時見つけた迷い馬だ


はにかむようなその笑顔がなぜか自分に向けられる

飛び降りようとするその体をこの両手で抱き留めた、気がした





場面は移り

頭を打ったの、と焦ったようにこちらを覗き込むハンジの顔も見えた

その場の風景は壁外のそれだ





…頭を打った?

俺が?





まさか、という思いのまま自身の後頭部へ手を伸ばすと、自分の知らぬ傷があった

既に縫合されているらしく完全に塞がっているようだが、その部分の皮膚だけが他に比べて硬くなり、
傷があったことを忘れないようにしているようだった








忘れていい




もう二度と一緒になれなくても、



ともう一度あの女の声がひどく遠く、それでもはっきりと聞こえた




…生きていてくれるだけでいいから




その言葉に返事をすることは無かったと思う

ただ

最後に見た瞳は深い緑に濡れて見えた





ダークブロンドの髪の柔らかさも、その甘い香りも自分のこの手は覚えていないのに

記憶の中で、誰よりも近い場所でその香りに包まれていた気がした

その服の下の白くて柔らかい肢体も、見たことなど無いはずなのになぜかこんなにも鮮明に思い浮かぶ

伸びやかで繊細な声が色あせた記憶の中で、
知らないはずの自分の名を何度も呼んでいた


向けられたことのないはずの…見慣れた笑顔で
切ないくらい愛しさを含む声が


───リヴァイ、と









ハンジはリヴァイのその瞳に色が戻るのを見た気がした

ビー玉細工のようなその目が、ゆっくりとハンジに向き直る







……思い出した?




ずっと

待ってるみたいだよ、と
ハンジはやっとその口端を上げた



  


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