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 アリビンゲーブ 59

「……」

言葉を失う私に視線を戻して、兵長がほんの少し、口元を緩めた。

「…なんだ、アホみてぇな面しやがって」

瞬きを何度か繰り返すが目は覚めない。
…夢では無い。

彼は、くっ、と面白そうに喉を鳴らして、手は私の顎に添えたまま更に顔を近づけた。

彼の口が開く。

「だから、後はお前次第だ…エマ。
俺はお前を無理に昇格なんてさせねぇ。
経験が無いまま上に行っても困るのはお前だからな。

…ただ、お前には実力がある。
対人で腕がある奴は、間違い無く自分の動き方を知ってるからな。
それは身に付けようと思って付くようなもんじゃねぇ。
…対巨人なんて今すぐは無理でも、そのうちに体が慣れてくる。
お前がその気なら、上に上がるのは時間の問題だ」


「私が、上へ…?」


彼の言わんとしていることが推し量り切れず、実感の無い声が出る。


彼は何かを見極めようとしているのか、私の反応を伺いながら小出しに話をしているようだ。
私は兵長のように頭の回転が速いわけではないので、勿体ぶられても焦れったいだけだ。

兵長、何を言おうとしているの?

彼の瞳を戸惑いながらも見つめ直すと、くるりと彼の瞳の奥で何かが光った気がした。


「…お前が、もし、そのつもりなら。
もし、このまま調査兵で居続けるなら…

俺はお前を手放すつもりは無い。

…酷な事を言ってるだろうが、俺はお前を死なせたいわけじゃない。
だが、ここにいる限りは離したくもない。」


だから、自分で選べ、と彼は突き放すように付け加えるが、
私にはどこまでも甘い言葉にしか聞こえなかった。

とくん、と胸が高鳴る。

勘違い、ではない。
夢、などでもない。

遠い、遠い存在だった彼まで、手が届きそうだった。



  


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