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 アリビンゲーブ 57

シワ一つないシャツを手に取りながら、不躾な質問を彼にしてしまった事を思い出す。
詮索するような差し出がましい真似は行き過ぎていた。

…きっと、嫌気がさしたはずだ。

今回のことは私にとっては最高の餞別となってしまった。
この幸せな思い出だけでこれからも生きていけるような気がする。

いつものように何も言わずに去って行ってしまった彼を追いかければ良かったのか。
いや、終わりの言葉を聞けるほどまだ心の準備は出来ていない。


…出来そうにない。


下着…も、彼が整えたのか。
恥ずかしく思いながらも、綺麗に整えられたそれを上下とも肌に付け直し、ホックを後ろ手に合わせる。

シャツのボタンを掛け合わせていく。

この部屋に来るのも、これが最後になるだろう。
力が抜けたようにベッドに倒れこみ、兵長の香りを胸一杯に吸い込んだ。


忘れないように、…消えないように。


ああ、まただ。
…胸が切ない。

温かい香りなのに、やるせない。


ぽた、と涙が顔を横に滑る。


どうしよう、
…どうして?


「…兵長、好き…」


兵長、たすけて。

睫毛を伏せると、涙がじわりと目の淵に溢れた。
初めから手の届かない人だと分かっていたはずなのに。

目を閉じていると誰かが廊下を歩く靴音が耳に届いた。

…こんなことしている場合じゃない。
早く宿舎に帰らなければ。

慌てて身を起こし、シャツを着直す。

兵長が帰ってきたら聞きたくない言葉を言われるかもしれない。
『まだいたのか』、『お前にもう用はない』…なんて聞く前に早くこの場を去りたい。

段々と近づく足音が大股で、聞き慣れたものだと気づく。

…兵長!?
ど、どこか隠れる場所は…

なんて慌てている間に、がちゃりと扉が開かれた。


…遅かった…。


私はと言えばまだベッドに腰掛けたまま下着にシャツを羽織っただけのお粗末な格好で、彼は何故か少し焦ったような表情をしていた。


「…間に合ったか。」

ふぅ、と彼は小さく息を吐き、ツカツカとベッドに歩み寄る。

どさりと私の横に腰掛け、その手が右頬に伸ばされる。
私は微動だに出来ないまま、もう触れられないと思っていた彼の体温に心酔していた。


「お前はいつも目を離した隙にいなくなるからな」



  


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