△ ポピー
「っつー…」
ずぅん、とした鈍痛が腰から下半身にかけて襲いかかる。
毎月来るものだと分かっていても、今月もいわゆる女の子の日が来てしまった。
いつもなら痛くても動ける程度なのだが、何か月かに一度、一日目から二日目にかけて動けなくなるほどの痛みに襲われる。
夜になって痛みの波が酷くなってきた。
このままでは眠る事も出来ないだろう。
明日の業務は…休めるかな、と理性的に考えるが、痛みに身を縮めこませることしか出来ない。
そんな時に、ガチャリと自室の扉が開かれた。
「エマ……どうした」
廊下からの燭台の光に、彼の姿が浮かび上がる。
「リヴァイ…?」
「今日はいつもより静かだと思っていたが…
具合が悪いのか」
「…うん…ちょっと…」
体を動かすのも辛い。
押し殺したような声が出す私を見て、リヴァイは眉を潜めて顔を近づけた。
「そんなに辛いのか…。
なにか薬を持ってきてやる。
腹が痛むのか?」
「…お腹というか…腰というか…」
うう、と唸るような声を出した私に、いよいよ心配になったのか、『医療班を呼んでくる』などと言い出したものだから思わず大き目に声を出した。
「だっ…!
大丈夫、あの、一か月に一回あるやつだから…!」
部屋を出て行こうとしていた彼の動きが止まり、こちらを振り返る。
「…一か月に一度?」
うん、と小さく頷くと、ああ、と彼は呟いた。
「…生理痛か。分かった。」
うっ、
はっきりとは言えなかった乙女心も分かってくれない…!
「って、…え?」
分かったって…?何が?
不思議に思ったが、そのままリヴァイは部屋を出て行ってしまった。
「???」
生理痛ならそっとしておこうとでも思ったのかな?
まぁ、確かにそうだ。
ここは大人しく寝ておこう…。
とは言っても痛みで寝れずに、思い瞼の中で夢と現実を行き来していた。
そんな時、ふいに扉が開く音がして、リヴァイが戻ってきた。
手には何か色々持っているようだ。
「…どうしたの?」
「エマ、とりあえずこれを飲め。」
そう言って体を起こされ、手渡されたのは、温かいカップだった。
「…それはただの湯だ。
お前はカフェインを取ると寝れなくなるだろう」
そして、自分の部屋から持ってきたらしいブランケットを何重にも体の上に掛けられた。
「冷やすなよ、今日は冷えた水も飲むな。
飲んでいいのは湯だけだからな」
「冷やすなって…そんなの、どこで知ったの?」
確かに生理痛は冷えから来る、とは言うけれど。
リヴァイがそんなに医療、というか女事情について詳しいというイメージが無い。
「……、
小耳に挟んだだけだ。
今日は俺もここで寝てやるから、横になれ」
そういって、一口飲んだだけのカップを私の手から取り上げる。
そのまま私の隣に横になり、ブランケットに自分の手だけを潜り込ませて、私の腰にその大きな手を当てた。
じんわりとした温かさが心地いい。
「……まだ痛むか?」
「ううん、かなり楽になった…。
ありがとうリヴァイ」
「…もう、寝ろ」
腰から伝わった熱を感じながら、リヴァイの胸元に顔をうずめていると、遠のいたはずの眠気が戻ってくるのを感じた。
−−−−−
「…で、だ…」
「……が」
朝になって、誰かが廊下で話している声で目が覚めた。
横を見てもリヴァイはもういない。
廊下からする声は…
ハンジと、リヴァイかな?
「…だから、なんで?」
「…あいつは体調不良だ。
起こすなよ」
「だから、お見舞いだけって言ってるのに〜!」
「必要ない。俺が後で見に行く」
「リヴァイひどすぎ!」
…なに、二人してくだらない言い争いしてるの…
そんなことを意識の端で思ったが、すぐにもう一度、眠りに落ちて行った。
───────
昨夜のこと。
「おい、ペトラ」
「はい!なんでしょう、兵長」
「生理痛には何が効くんだ?」
「…生理痛、ですか。(エマちゃんかな?)
兵長、とりあえずその薬の山を置いてください…。」
ポピー
おわり