△ サルタナ 39
「やぁ。
その後、師弟関係とやらは上手くいっているのかな?」
開口一番にそう訊かれ、リヴァイは眉根を寄せた。
エルヴィンの執務室で雑事に追われている中、開けっぱなしにしていた扉から明るい声と共にある人物が室内へと足を進めてくる。
「ハンジか」
師弟関係。
その響きにリヴァイはまた眉間の皺を濃くした。
それはエマがあの時適当に答えた単語だった。
どうもあいつには、思い付いたままを口にするという癖があるらしい。
「それって時々、君が夜中まで立体機動装置を着けたままのことと関係あるのかな。
珍しいね、そんなに他人の為に尽くすなんて」
「あぁ?
何言ってる。
別にあいつの為だけじゃねぇよ」
その質問を気にも留めずに、リヴァイは新しい書類の束を掴んだ。
リヴァイは夜に自室や宿舎を抜け出す際、わざわざそのことを隠したこともない。
自室が近いハンジやエルヴィンの中にはそれに気付いている者がいてもおかしくないとは思っていた。
それに加えてエマの師弟関係という言葉で、ハンジには大体の見当はついているようだった。
「ふーん。
まぁ、いいんだけどさ。
それってエマが言い出したこと?
それともリヴァイ?」
そこまで気付いているにしては、ハンジの食いつきがしつこい。
どうやら聞いておきたいことがあるようだ。
「……なんだメガネ、さっきから。
やけに食い下がるじゃねぇか」
そう言うと、ハンジは眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく細めて見せる。
「ちょっと気になってね。
あんな優等生のエマに立体機動の訓練なんてつける必要あるのか、とか」
いつも通り悪態をつこうと一瞬口を開いたリヴァイだが、聞こえた言葉にふと片眉を顰める。
「……待て。優等生?誰の話だ」
「エマだってば。
仕事は早いし抜け目はないし、予行も演習も完璧にこなすから上からも下からもかなり評判良いって、前にも言ったろ?」
成果も上々鰻登り、と付け加えるハンジを一瞥してから、一度エマの顔を思い出してみたリヴァイは、やはり「人違いじゃないのか」と顔を歪めた。
「今そういう冗談はいいから!
なぜ訓練なんかつけているのか、質問の答えは?」