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 サルタナ 36

そんな他愛ない話をしているうちに休憩時間も終わり、他の兵士たちも各自所属の場所へ戻っていく。

班の集合場所が離れた演習場だった、と焦って立ち上がったフランカはバタバタと慌ただしく走り去っていった。


「それじゃあ私達も戻ろうか」


と立ち上がるハンジさんに続いて腰を上げる。


「君とここで会えてよかったよ、エマ。
また話そう」

「こちらこそ、お話できて嬉しかったです。」


別の棟に歩いていくハンジさんに軽く会釈した。

実際の彼女は話で聞いていたより人当たりもよく冗談も言うしで、無愛想な彼よりずっと人間らしかった。
彼と他の人を比べること自体がいけないのかもしれないけれど。


そのときの彼女の言葉通り、この日を境にお互いを見つけては時折会話をするようになった。
話題は天気だったり巨人だったり、…彼のことだったり。

ハンジさんとの会話から、彼について新しく知ることも多かった。
兵長としての彼の仕事内容や大体の日程なんてのはそれまで私には知る方法もなかったから、とても興味深かった。

何故か聞いてもいないのに彼のことについて教えてくれる理由については、敢えて聞かないようにした。

話を聞く限りハンジさんと彼の仲も良いようで。
なんだか、少し意外だった。
…良い意味で。



調査兵団の分隊長クラスには本当に様々な人がいて、その誰もが一癖も二癖もあるというのは確かなんだろう。
だけどそれ以上に、命のやり取りをする中で頼れる存在なのは間違いない。

実力は勿論、言動もそれぞれの信念だったり経験則に基づいたものなんだろうと感じられる。
予期せずその片鱗に触れるたび、敬服すると同時に自分の至らなさと比べては消沈してしまう。


団長をはじめ他の分隊長も、そして、兵士長になった彼も。
共に戦う同士として勿体ないほどだ。
それでは、自分はどうなのか。


伝えられた作戦の内容に一々動揺しては、それに従った故の壁外での自らの行動を悔いてしまう。

それでも、思い悩む猶予などない。
責務を持ち、頼られる立場になったのだからと無理矢理にでも目の前を見据える。

悔いても悔いても間に合わない。
外へ出て、すぐに内側へ。

戻ってきてすぐは、憎しみも怒りも、悔しさも悲しみも全てが鮮烈に感じられるのに。
幾度も幾度も繰り返すうちにすべてが色褪せてしまう。

胸の内側に、自分でもどうしようもないもどかしさが募っていく。
でもその焦燥感を見せることも、どう消化すればいいかもまるで分からなかった。

亡くなった命を仕方ないなんて言葉で片付けられない。
そう分かってはいる。
だけどこの大きな流れを自分一人で変えられる気がしない。


外も内も麻痺すれば強くなったことになるんだろうか。
その度に痛んでいた胸も少しずつ楽になる。

上手く息が出来ないことがあっても、時間を置けばまた楽になった。


友人との談笑で笑い合う自分も、噛み砕かれた部下を助けられずに帰還する自分も、同じ人間なのだと考える度にどうにも不思議な心地に襲われる。


その時の気分は決まって良くない。
クラクラとしたり、時にはぼんやりとしたり。


これが上手く切り分けられていることになるのかは不明だが、気付いた時には自分の中でそうなってしまっていて、今更どう変えれば良いのか検討もつかない。

何度も壁外へ向かい成果を上げていく一方で、心の中は上手く表現出来ない葛藤がつみあがっていくようだった。



  


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