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 サルタナ 33

そこで、壁外での拠点を必ず確保する為の作戦が実行されることになったのだ。


団長の考案した長距離索敵陣形では全体の進行方向と被害を常に把握し進行方向を変えられるという利点がある。

当然この作戦にも索敵陣形が適用されるのだが、いつもと違う点があった。


それは“作戦の絶対的優先度”だった。
平たく言えば拠点開発のため陣形持続を何よりも優先し、多少の犠牲には足を止めずに進むということだ。


各班の中には経験値も技量も低い新兵は犠牲になって当然と考える兵士もいるようだけれど、班長のほとんどは、出来れば新兵に生き残って欲しいという考えを少なからず持っている。

だが、今回ばかりは後者を否定する内容だった。
かく言う私もそんな先輩兵士や班長に手を貸してもらって初めて壁外を生き抜けた一人だというのに、だ。


壁外での兵站拠点は、当たり前だがそう容易に作れるものではない。
基盤となる地形があれば好ましいが、それも巨人からの脅威を凌げる程の高さや強度を要したりと、クリアしなければならない項目がいくつもある。
自然に出来たもので拠点となる場所を見つけるのは時間も労力も必要だ。

現に私が入団してから兵団は何度も壁外遠征に出ているけれど、新しい拠点を作れるまでに至っていない。



広げられた地図の上に、いくつかの拠点になり得る候補地が乱雑に示されていた。

その場所を与えられた配置に沿いながら、部隊ごとに最短かつ正確に確認していく流れだそうだ。



限界まで広がった陣形では、索敵班は機能するのか。
索敵部隊の取りこぼしもきっと通常以上にある。
巨人との遭遇率は通常より上がるだろう。


そんな状況で拠点の開発作業を行う?
どうしても経験の差で劣る新兵が各配置で取り残されていくだろう。
普段通りに陣形を展開しても確実に援護しきれない。

…時間稼ぎの犠牲にする?
利益の為に犠牲は必要?




優先すべきは作戦の成功。



それは今までも分かっていたつもりだった。
けれどこうして作戦の中に明らかな言葉として織り込まれたのは初めてだ。


部下を見殺しにしてでも作戦を優先しろ。
そう言っているも同然だ。


団長の判断に異議を唱えるつもりはない。
きっと全ての要素を考えたうえでの結論で、それが最も明敏な決断だったんだろう。




そう考えれば考えるほど、どくどくと、心臓がまた嫌な感じに騒ぎ出す。



吐いた息を、もう一度深く吸ってから、長く薄く吐き出した。



呼吸しているはずなのに、と思う。
脳に酸素を送り込んだはずなのに、どこか酩酊にも似た眩暈を覚える。



壁外に行くことにももう慣れたと思っていた。


多少なりとも心身ともに強くなれたと思っていたけれど、どこからが自分の理性でどこまでが本当の感情なのか、時々見失いそうになる。



  


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