△ サルタナ 22
他に類を見ない逸材。
それは分かっているのだけれど、それでもその与えられたという役職には少なからず驚いた。
それはきっと私だけじゃなくて、エルヴィン団長を除く兵団全体だったと思う。
調査兵団兵士長。
その役割も責務も、どの階級に次ぐものなのかもはっきりとしていない。
そこに至るまでに団長と彼との間にどんなやり取りがあったのか。
それは誰にも知る由もない。
ただ、今まで調査兵団内で前例のない階級が生まれたことだけは確かだった。
出自も異例ならば、出世も順を踏まない異例のもの。
彼にはそれほどの価値があるのだと証明されたようだった。
大多数の調査兵団所属の兵士がそうだったように、私もまたその一風変わった報せを人伝いに聞いて、それをまた同じ班の兵士内と話題にしたりしながら広めていくことに一役買っていた。
彼本人からではなく。
そうして他の兵士たちからしか聞けないことに、そうして他の人たちと同じ情報しか知りえないことに、ほんの少しだけ胸の奥が騒いだ気がした。
ほんの、すこしだけ。
彼はあの時”肩書なんてない”、と言ったけれど、今ではもう立派な主力部隊の一員だ。
彼の実力を誰よりも認めているのに早々と出世してしまうのを見てまた少し落ち込んだ。
こんな風に感じるだけ不毛だともわかっているのに、だ。
私はなんだか複雑な思いが胸の内でゆらゆらとして落ち着かず、あのソファの部屋に向かうのも少し控えていた。
部屋に行きたくないわけではなくて彼にどんな顔をして話しかければいいか分からなかったからだ。
こんなこと、当の本人は微塵ほども気にかけないともわかっているのに。
そうやってまた自分と彼との違いを見つけては気が重くなる。
それの繰り返しだった。
なので、あの部屋に向かうのは絶対に彼が来ないと分かっている夜更けだけにしていた。
リヴァイ兵士長。
兵長。
それから調査兵団はもう一度壁外調査を行い、その間にも彼の呼び名は定着しつつあった。
人々が噂をすればするほどその呼び名は耳に馴染んでいく。
彼がどんなに注目されているのかを証明するようだった。
かく言う私も例外ではなく、他の人たちと同じように既にその呼び名で慣れ始めていた。
なのでその遠征を終えた数日後、いつものように誰もが寝静まった時間にあの部屋を訪れているとき。
こんな夜更けに今までは来たことのなかったはずのその姿を見ては、自然と。
「……兵長?」
と、自分でも気づく前に呼んでしまっていた。