△ サルタナ 20
その夜以来。
まだ自分でも精鋭と呼べる域には達していないものの壁外調査に向かっては一体、また一体と討伐数を伸ばすようになっていた。
エルヴィン団長の考案した長距離索敵のおかげで巨人との遭遇自体が減っていたけれど、それでも壁のそとにはあの生き物たちが生息しているのだ。
どこから来てなにが目的で存在しているのか、全てが謎に包まれている生物。
彼らにも何かしらの存在理由があるのかもしれないけれど、それが人類存続を揺るがすのであれば。
味方を無条件で死に追いやるのであれば、命を懸けて討伐する価値もあるというものか。
兵団全体の総兵員数も著しく減少し班の編成も何度も組み直された。
班員が減り、班長が戦死し、人が移り変わる。
濁った水の流れが自分の周りをぐるぐると渦巻いていって、あんなに守りたいと思ったはずの人たちを絡めとっていってしまう。
済んでのところで、連れていかれかけた班員を無理やりこちら側に引き寄せたこともあった。
けれど大きな手や口に引っ張られていく仲間を全員助けることも出来ずに、自分だけが何度も生き延びていた。
怒りや憎しみから巨人に後先考えずに切りつけたり、その一方で自分の力が及ばないと判断しては彼らをその場に置き去りにしたり。
感情を押し殺すことに慣れたのか、仲間を失くすことが当たり前だと思い始めたのか。
どちらも吐き気がするほど気持ち悪いはずなのに、何度もその場面を目にして、私の感情も感覚も確実に死んでいく。
ただその水嵩だけは着実に増えていく。
足元のブーツは既に濡れ、中にまでじわじわと染み込んでくるようだった。
今はもう濁った水を汚いとは思えない。
汚くなんて、ない。
手に掬えば鮮やかな色ばかりなのだ。
ひとつひとつのその色を忘れてしまいたくない。
ひとり、また一人。
押し流されていく兵士の腕は気付けば私の足に絡みついたまま。
助けを求めているのか、私もそちらへ行けばいいのか。
私の想像の中だけなのかそうではないのか。
少しずつ、それも分からなくなりながら。
その中で私は彼ほど目立つ働きこそできないながらも、生き残ることで確実に成果を上げていた。
その時々で空いてしまった穴を埋めるように副班長補佐、代理なんてものを経て副班長までこなすようになっていた。