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 サルタナ 16

その壁外調査は私の人生で四度目で、彼との個人訓練とやらを始めてからは初めての遠征だった。


私はこの回をもって、やっと危なげなく壁に帰ることが出来るようになっていた。
訓練の成果を自分でも感じていた。

足の震えはもう、ない。
外界でもしっかりと顔を上げて対処できる。


場面によっては一体の巨人でも数十名でかからなければ倒せないこともある中、班員たちがしっかりと巨人を地に引き倒す。
あ、と思ったのはワイヤーで巨人を縫い止めたままだった班長としっかり視線が合ったときだった。

その場では私以外に適任はいなかった。

少しでも殺すことを躊躇えばこちらの犠牲が出ていたような状況で、私は初めての討伐数を刻んでいた。
その時は無我夢中で何がどうなったのか分からなかったけれど、手首のひねりと切り込む角度、それから練習とは違う血しぶきが上がるうなじを切り取った実感は壁へ戻ってきた後から湧いてきた。



超人的な能力こそないものの、空から巨人が降ってくるような異常事態でも起きない限りは自分の命を守れる気がした。
周りの兵士を守れるような状態には、まだ少し、程遠いままだけれど。



彼との訓練の賜物だというのは間違いなかった。

実際の討伐を自分の手で行うときが来るなんて、初めて壁外調査へ向かった時の自分からは全く想像もつかなかっただろう。


あの訓練で少しずつ変わったのは自分自身の捉え方だったのかもしれないと、絶命した巨人から上がる嫌な蒸気に巻かれながら思った。





壁内へ戻る隊列の中。
主力部隊のすぐ後ろの列に彼の姿があった。


壁外でも彼のことは容易に見つけられるようになっていたけれど、彼の所属する部隊や任務が変わるのかその姿が見えないことも多々あった。

だけど彼のいる場所はいつでも戦闘の前線や危険な場所が多い。
あまりにも多いその頻度は、彼自らが希望しているのではと感じる程だった。



彼の戦闘力は常軌を逸している。
それは誰の目にも明らかだ。


彼一人が何人分もの一般兵士の働きをしてみせる。


けれど彼という人間はひとりしかいないのだ。


いくらその戦闘力で圧倒的な数の巨人を討伐できたとしても他の部隊では同時刻に別の兵士が犠牲になる。


彼一人で兵団すべてを担う事なんてできない。
兵士全員が彼のレベルまで到達することが難しいことと同じくらい。



口が悪くてひねくれているのに、驚くほど的確な思考力を持っていて。
粗暴で皮肉ばかり言うのにどんな危険な局面でも率先して剣を振るう。

知れば知るほど矛盾しているような彼という人物。
こんな人は周りにいなかった。

何度か言葉を交わしていると言うのに、いつまでたっても掴めないこの感じがもどかしい。

彼は。
本当は、一体どういう人なんだろう。






遠征が終わり、また兵団内ですれ違う人の数が減った。

その一線を越えた彼らはここに戻ることはもうない。

置き去りにされたのはどちらなんだろう。
私達が彼らを置いてきたのか、それとも彼らが私達をこの現という場所に置いていっただけなのか。

見慣れた風景や顔触れを見ては、残されたのは私だけではないのだとどこか安堵する。
それが例え、廊下の端で見かけたあの少し不機嫌そうな横顔だったとしても。





季節の変わり目らしく、その月は晴れていたと思えば急に雲が立ち込めて爽やかな雨が降り注いだりした。

すぐに上がったその雨に弾かれ緑葉が風に揺れる。




エルヴィン分隊長が団長に就任するという報せを聞いたのは、それからすぐのことだった。



  


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