△ サルタナ 05
───掃除用具。
そう言われて彼の手元に目をやると、確かに短い柄ながらはたきのようなものや、新品同様の雑布が何枚か抱えられていた。
それでもここに彼の管理するものが置いてあるのは事実だ。
現に、その掃除するための用具がいくつも。
それと。
「あ、でも、このソファとかも…」
「それもあいつらが……面白半分にもらってきただけだ。
好きに使えばいい」
そう言うと、用事は済んだとでも言うように脇目も振らずに部屋を出て行った。
これで二回目だ。
彼の声を聞くのは。
だけどあのときの声のトーンとは大分違う。
周りに興味がなさそうなのは変わらないけれど、それでもそこに攻撃的な色は見えなかった。
また少し、印象が変わった、と思ってしまった。
皆が言うような誰にでも噛みつくひとではないような。
怖い印象なのは変わらない。
ぶっきらぼうで、とっつきにくいのも変わらない。
目付きがとても悪くて不機嫌そうだけれど、少なくとも彼は私が嫌な気分になるようなことは言わなかった。
やっぱり、嫌なひとには思えない。
頭の中で彼の声を何度も思い出した。
あいつら。
あいつらって?
そんなに親しい友人が今の彼にいるとは思えない。
そうなると、当初は三人組だったという彼の仲間二人のことだろうか。
面白半分にこんな大きいものをもらうようなふたり。
あの目付きが悪い彼からは冗談半分なんてそんな雰囲気は到底感じない。
そのふたりはもしかしたら彼とは真逆の性格で、明るくて冗談好きだったのかな、と勝手に想像してしまう。
顔色も変えずにあいつらと言ったけれど、そのあと一瞬だけ言い淀んだような気もした。
気のせいかもしれないけど。
でも仲間を二人失って平気な人なんてきっといるはずない。
三人とも地下から来たらしいから、もしかしたら三人ともが幼馴染だった、なんてこともあるのかもしれない。
それとも、もしかして三人共兄弟だった?
そうなったらきっと彼は一番上だ。
その二人を失ってから彼がここに留まる理由が俄然知りたくなってしまった私は、野次馬根性が強いんだろうか。
それから壁外調査に向けて訓練が重ねられていく中で、彼の姿をその部屋で見たのはそれが最後になった。
別に会いたいわけじゃない。
むしろ毎回どきどきして、その扉が開いているのを確認しては胸をなでおろしていた。
ほっとして、今日もいないんだと息を吐く。
会いたいわけでは、ない。
見かけるたびに印象の変わる彼の本髄を見たいと思うのは野次馬的な好奇心からで、出来るなら関わり合いたくないのはやっぱり変わらない。
それでもソファに座ることはどうしても出来なかった。