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 カトレア 08

「…っ、わ、かんない……ていうか…リヴァイ、ここ、外…」


重そうに瞬きをして俯き、その頬が更に熱くなる。
その反応が面白い程返事を物語っていて、リヴァイは満足げに一瞬口端を緩めた。

荒い呼吸を繰り返すその胸元も呼吸に合わせて大きく上下している。

背中に腕を回したままのリヴァイは、その様子に気付いて布越しにその胸に歯を立てた。


「……!っんん…!」


かり、と甘噛みされて、エマは椅子から落ちかけた身体を震わせた。
立てられた歯の間から今度はちらりと紅い舌が覗く。

薄い布一枚隔てて熱くなった胸の先端が舌で確実に捉えられて、ドレス越しにもその場所が分かるほど胸の形が見えていたのだと一瞬だけ恥ずかしくなり、だけどそれもすぐに薄れていく。

布越しに舐められるなんて、なんでこんなにいやらしく感じるんだろう。
とってもいけないことをしている気分だ。

先端まで熱くなった胸への愛撫だけでまたすぐに身体の内が熱くなり、大きく声が漏れそうになる。

不意に肌を掠める冷たい空気がまだここが外だと感じさせてくれて、正気を取り戻してはリヴァイの体を押し返すように力を込めた。

それでも背中から強く支えられる腕と胸を遊ぶ唇は離れなくて、脚の間にも伸ばされる指先に意識が飛びそうな思いだった。

中指がもう一度深く内壁に沈み込み、柔らかく蕩けた内部を小さく出し入れされるだけで目の前がくらくらとする。

恍惚とし出した時にはすぐにもう一度押し上げられて、呼吸が一気に浅くなった。


「……、…っ…」


今度は自分で認識する前に全ての刺激が頂点まで上り詰め、エマはその感覚にぎゅっと目を瞑った。

大きな瞳は切なげに歪み、薄く開けられた瞼には軽く施された化粧がそれでも綺麗に映える。

眼下にはまだ笑い合う人々の談笑が距離を置いてぼやけて聞こえて。
目尻に滲んだ涙は零れる程ではなく、乱れた髪と苦しそうな息が夜のバルコニーに艶めいていた。





───年齢にそぐわない。


その情欲的な姿を見てリヴァイは半ば無意識に顔を寄せて唇を合わせた。
上り詰める際の苦し気な表情が目に焼き付いていた。

相手は十以上も年下だと忘れそうになるが、年など何の意味も持たないことをリヴァイは経験していた。

どんなに幼くても各々の経験次第で中身はいくらでも大人びることがある。
エマも、地下街のガキ供も然り。

過去をどう糧にして育つかはそいつの性格と捉え方次第だ。
思えばエマは昔から多少静かだったものの、他人との関わりを避けようとはしていなかった。

笑顔を見せるようになった時にはエルヴィンの家に慣れたのかと思ったが、それも俺の前では特によく笑うと聞いて顔には出さずに驚いたものだ。


気付けば段々と蕾が開きだして。
時折若い肢体に潜む色気に我を忘れそうだった。
エマは初心な反応とは不釣り合いなくらいそそる表情や仕草を見せることがある。


特に今日の服装は駄目だと、一目見た時から苛立たしかった。
髪型も服もいつもと違うのもそうだが、そのせいでいつものあどけない雰囲気が消えてしまっている。


妙に華美な衣装ではなく暗い色のものなので、余計に白い肌が際立つ。
装飾品を付けていないことも他の派手なだけの女とは違って逆に見栄えがした。

似合っていないわけではない、むしろその逆だ。
ただ他の男の目に余り触れさせたくない。


今までは短い髪やまだ幼い顔立ちも手伝って、振り向く男が少なければそれに越したことはないと思っていたが。
こいつが近しく接するのは自分だけだとどこか油断していた。

気付けば幼かったはずの顔立ちは充分に大人びて見えて、今まで見過ごしていたやつでさえああして手を出そうとする始末だ。
エマはそれなりに人見知りすることから考えても、さっきの男はおそらく憲兵団にいた時の知り合いだろう。


恋愛事などしがらみの一つにしかならないと馬鹿にしていたが、まさか自分にこんな手放せない存在が出来るとは思ってもいなかった。







−−−鍵の掛かっていないドアノブを回したときにはまず文句の一つでも言ってやろうと思ったのだが。

バルコニーのガラス戸越しに、高椅子に腰掛ける姿を見て言葉を飲み込んだ。

流れるような髪も、華奢な靴も開きすぎな薄い服も所詮纏うものに過ぎない。
暗い色の服からはすらりとした両脚が晒されて、ふくらはぎから足首にかけての程よい筋肉と、柔らかい腿までが無防備なほど露になっていた。
短い裾のまま片足を上げれば普通なら下品な仕草にも見えるものだが、こいつに至ってはそれとは無縁だった。

無造作に足を組む仕草も、髪をかき上げる手つきも、完全なる成熟したそれにしか見えず。


光沢のある服から見て取れる胸の形と改めて見る身体のラインに、足先まで顔貌が整っているものだなと今更気づき、後からこれが大勢の人間の目に触れたかと思うと途端に不愉快になる。

その薄い服を容易に引き裂いてその場に引き倒し、その肉体を余すところなく自分のものに。

装飾されるその中身が自分の見知ったもののはずなのに、強引にでも手に入れたいという欲が内から湧き上がる。


泣いたとしても酷く暴いてやりたいという思いは、こちらを振り向いたいつもの笑顔を見て何とか押し留めた。

エマがしていた様にその髪に指を通しかき上げて見たり、顔に施された化粧に間近で触れては自分の知る存在なのだと言い聞かせていた。
いつもよりその身体が熱いことに気付いたのはその頬や首元に指先を伸ばしたときだ。







ずるりと完全に座っていられなくなったエマの身体に、リヴァイははっとして咄嗟に抱き直した。

「っと。危ねぇな」

夜は冷える、と露な肌に触れながら思った。
こんなに薄着だと今は熱くても冷えるのはすぐだろう、加えて肌が当てた手に吸いつくように汗ばんでいるのだ。


まだぼうっとしている様子のその身体は室内に横たえた方が良さそうだった。
何度もここが外だからと自分の手を止めようとしていたことを思い出す。

確かに暗いとはいえこんな外で触る気は無かった。
それがどうもエマを相手にすると手が止まらなくなる。

「……?」

不思議そうな顔を見下ろし、不意にその身体を横抱きにする。
そうすると腕の中のエマは一瞬驚いて、それからすぐに首元に手を回した。

無意識なのかもしれないが、いつも強く抱くとエマは小さく息を吐く。
抱き寄せるときも抱き返すときも、こうして急に抱き上げるときも。

その時は決まってその吐息と一緒に身体の強張りも小さくなり、全てをこちらへ委ねてくるのだ。
どんなに不意をついて抱き上げても安心したように力を抜くので、何度か手を伸ばしては、試しているのか純粋に触りたいのかも定かではないまま抱き上げたこともあった。


緊張する身体も体温を分ければ解けていく。
ひとつひとつの反応がそれなりの意味がある気がしていた。


開いたままのガラス戸を抜けて後ろ手に軽く閉め、どさりとその体をベッドに落として上から乗りかかる。
じり、と迫るとその体が少し後ずさった。


・・・なんだ、ここまで来て抵抗する気か。

その腰を捕まえて、今度こそ上から逃がさないように腕の檻に閉じ込めた。


「逃げるな。お前の言う通り部屋に戻ったじゃねぇか」


見下ろすように覗き込むとエマはまだ火照った顔で少し焦りながら答えた。


「あの、だけど…ここって使っちゃいけないところなんじゃないの?
こんなことしてていいの…?戻った方が、」

「…こんなことって、なんだ」


それでも心配そうに話す唇からはすでに赤い化粧の色は取れていて、元の淡い色が蝋燭の灯りでも辛うじて見て取れる。


「え、…だ、だから……っ」


色んな単語を自分の口から発するのは恥ずかしいのか、言わせようとしているこちらの企みが分かってエマはこちらを見上げたまま言葉に詰まっていた。


上気したままの頬と自然と潤む唇に、大きく見開かれる瞳。
先ほどまでの熱が冷めないのか、まだどこか危ういその表情。


・・・だから、その顔だ。
こんな子供じみた真似をするつもりはなかったんだが。


間近からその少し恥ずかしそうに困る瞳を見て、そのまま唇を重ねた。
長く重ねてから口内まで味わうように舌を伸ばすと、肩がぴくりと揺れ、苦しそうにしながらも恍惚とした反応が返ってくる。

何度も教えた通りに応えてくる仕草がいじらしい。

繰り返しキスをして、そのまま首に口付け、乗りかかったまま腿に手を這わして下着も付けていない腰のラインから上へと手を伸ばす。

その服としての意味を成しているかも疑問なドレスに手を掛けると、その手がまた止められた。
内心舌打ちをする。

・・・いや、実際していたかもしれなかった。


「今度はなんだ」


「だって、本当に戻らなくていいの?」



さっきから質問に答えてくれないリヴァイに制止の声を掛けると不機嫌な声が聞こえたけれど、負けずに食い下がった。

だってこの夜会のそもそもの目的は資金集めのはずだ。
しかもリヴァイが来ているとさっき多くの人に知られているわけで。
ここで隠れているのってリヴァイの立場が悪くなっちゃうんじゃないの?


その体の下から彼を見上げていると、諦めたようにふとその表情が柔らかくなる。


「大丈夫だ、さっき話はつけてきた」


あ、なんだ。
そうだったの?
もしかして、さっき出て言ったときかな。

そうならそうと言ってくれれば良いのに…。

そもそもは私がこのパーティーに出席しないとリヴァイにも迷惑が掛かると言われて来たのだ。
ここに来て私も本人も参加していないなんてどうなるのかととっても気がかりだった。


でもそれならそうと言ってくれればいいのに、聞かなきゃ教えてくれないなんてなんだかずるい。
・・・でも問題なさそうならよかった。


「ああ、それから」

「…!?」


突然顔の横に置かれていたリヴァイの手に腕を掴まれ、そのまま頭の上で縫いとめられる。


「迎えの馬車は明日の朝にして来た。
どうせ向こうに戻ればまたお前との時間が限られるんだ、今夜くらいはゆっくりしていっても構わないだろう」


つつ、と反対の手が膝から腿を滑って更に上に移動しようとして。

・・・今度は抵抗出来なかった。

熱に浮かされた心地のまま彼を見つめると、これ以上抵抗をしないのが分かったようでその目元が満足そうに小さく緩んだ。
掴んでいた腕が解放されて、そのまま肩のストラップがするりと外される。

腿からはもう片方の手が滑り込み、胸元からは支えを失った華奢なドレスが静かな音を立てて簡単に降ろされていった。

熱い口付けが降ってきて、同時に腰の辺りに落ちたドレスが、下から入り込んだ手によって器用に足元から外されていく。

「……!」

ドレス一枚が無くなるだけで。
途端に全身の素肌が彼の下で露になった。

バルコニーでのキスとは比べ物にならないほど深いそれに容易くペースを乱されていった。

「ふ……ぅ、…っ」

熱い手の平が布一枚無くなった肌を味わい尽くしていく。
身体中に何度も彼の唇と指が触れて、どんどんと感覚が敏感になるのを感じた。

全てが初めてのときよりも熱くて深い。
声を抑えようとしたけれど執拗に責められ、その余裕もなくなっていった。

恥ずかしいくらいに声が漏れてしまって、それでも快感から逃れることは出来ずに全身が熱くて熱くてたまらなかった。

身体が溶けるんじゃないかと思った時にやっとその腕が緩んで、リヴァイが着ていた服をばさりと脱ぎ捨てる。


なんだか高そうなその上下の正装。
リヴァイも誰かから渡されたものなのかな、と動かない身体でぼんやりと思った。



  


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