△ ブバルディア 07
水に濡れた綺麗な指が身体の中からゆっくりと引き抜かれる。
リヴァイがそのまま私の両腿を抱え上げるようにして脚の間に身を屈めたので、彼が次に何をしようとしているのか嫌でも分かってしまった。
脳裏に浮かぶのは、先ほどまでの彼。
いつもの潔癖すぎる彼からは想像が出来ないほど、私の身体に唇を寄せては舌を這わすその姿。
慌てて重い体を起こした。
「…リヴァイ…っ…」
「………なんだ」
荒い息を吐いて、その胸を押し返すようにしながら懇願した。
その声は、優しい手つきとは違って止められたことへの不機嫌さを隠そうとしない。
それでも、これだけは嫌だ。
そ、そんなところを舐めるっていうのは普通にすることなの?
嫌がる私の方がおかしいの?
シャワーを浴びたと言ってもまさか舐められるとは思っていなかったのだ。
汗ばんだ体を舐められるだけでも平常心でいられないのに、そんなところを舐められるのだけはものすごく抵抗があった。
「それだけは…っ今は…や、だ…」
涙目での訴えに対して、一拍遅れてぐいっともう一度腿のあたりから引き上げられた。
「あ…っ、や、やだ!リヴァイ、お願い…っ」
無理矢理脚を開かれる、と思ったけれど実際には太腿に唇が触れただけだった。
口付けられる水音と、体の中心の近くに生まれる小さい刺激にまた、はしたないくらいの疼きを感じる。
「……ん、や…ぁ…っ」
意思とは反対に体はどこまでも貪欲で、刺激を期待したままどくどくと脈打っているのが分かる。
更に敏感になる身体にリヴァイの指先が馴染んで、呆れたような、諭すような声が返ってきた。
「……今日だけは許してやる。お前が言ったんだからな…。次はどんなにお前が拒んでも離さない」
「……っ!」
少し怒ったような、それでも艶を含んだような声色。
屈み込んでいた彼の体が私の正面に戻ってきて、それと同時にまた指先が敏感なところばかりを遊び出した。
「ーーーッ、……あ、っ…!」
正面から切なげに見据えられたまま深いところまで沈み込んだり、柔らかいところを持ち上げるように動かされたりして今度こそ頭の芯が痺れ出した。
息も満足に吸えず、腰を押さえつけられ抵抗さえもできないままリヴァイの指先ひとつで何度も直ぐに登り詰める。
水を吸ってますます円滑に滑るようになる彼の指先が、自分の中の絶えることのない貪欲さを体現しているようだった。
脚も、指も、頭の中さえ上手く自分では動かせないようになってから、リヴァイの声だけが不思議と身体の奥まで染み込んでいく。
「……エマ、こっちを向け」
「…っ…は、ぁ……」
その声が聞こえるだけで心の底から安心する。
リヴァイ、リヴァイ。
側にいて。
髪を撫でて手を握って、抱き締めて。
もっとキス、して。
…ずっと側にいるって言って。
「……ああ、ここにいる……」
喉が乾く。
リヴァイの手を掴んで、その背中に手を回して。
そう小さく答えた彼の言葉は、私には届いている様で届いていなかった。
どこまで自分が口にしていたのかも定かじゃない。
熱に浮かされて、記憶もある様でいてところどころ無くなっていたのかもしれない。
少し長くなった栗色の髪がシーツの上に柔く広がる。
リヴァイの肌に指を滑らせて、羽織ったままになっているシャツを脱がせるように覚束ない手で少し引っ張った。
それに気付いて、彼は促されるままシャツを脱いでくれて。
腕を外されたシャツはぱさりと乾いた音を立ててシーツの上に落ちる。
そのまま膝まで兵服を降ろしてから、彼の体が私の脚を抱える様にして抱き直した。
均整が取れた、綺麗な身体。
筋肉質なのは分かっていたけど、服を着ている時とは布一枚越しにこんなにも印象が変わるものなんだ。
固いと思っていた彼の筋肉は、実際はとてもしなやかで。
腕の形も、お腹を縁取る筋肉も、私のものとは全くの別物だった。
自分が見られるのは嫌な癖に、その綺麗な体を薄暗い中で見ているのが少し勿体無いと思った。
無意識にその身体に触れる指先を絡め取られて、彼の背中に手を回す様に引き寄せられた。
不意に、あやす様に額にふわりと口付けられる。
「…捕まってろ」
不安な行為のはずなのに、リヴァイだと思うと安心してしまう。
見せてくれるのが彼ならばどんなに痛い行為でも構わないと思ってしまう。
「っ、−−−……ッ!!!」
熱が一つに溶け合って、熱く猛る体が自分の中に沈み込む不思議な感覚。
強く握り締める手をリヴァイが更に強く繋いでくれて。
受け入れるように手のひらから絡み合う。
何度も指で慣れない身体を慣らしてくれていたのは分かっていたけど、それでも比べ物にならないくらいの感覚に思わず体を強張らせた。
エマ、
エマ………
リヴァイが私を呼ぶ声がやっと耳に届いた。
はぁ、と短く息を吐いて彼を見上げる。
滲む視界の向こうに彼を見るのはこれで何度目だろう。
だけど、こんなにも優しい眼差しは初めてだった。
「……いいから力を抜け…、
そうしねぇとお前が辛いだけだ」
言っていることは分かる気がするけど、それでも経験したことのない痛みに体が付いていかない。
「口を開け…こっちに集中してろ」
そんな私を見兼ねてリヴァイは唇を重ね柔らかく舌を絡め取った。
今度は苦しいことはひとつもなくて、キスの合間に呼吸を促される。
忘れかけた刺激をひとつひとつ繰り返しては、どこまでも甘く身体の緊張の溶き方を教えてくれるようだった。
自分ではもはや何がどうなってるのか分からなかった。
言われる通り、促される通りにリヴァイについていくと、それだけで身体がもう一度疼き出した。
「そうだ……それでいい。
……そのまま……深く息を吸え」
その言葉で、大分力も抜けて受け入れられそうなのだと実感した。
「……あ、ぅ……っ!」
ぐっ、と身体ごと強く抱き竦められて、同時にリヴァイの体が一段と深く沈み込む。
隙間がないくらい身体がくっついて、圧倒的な圧迫感に一瞬息が止まった。
だけど痛みの更に最奥では言葉に出来ないくらいのもどかしい気持ち良さが感じ取れて、否応無しに腰からびくりと震えてしまう。
「……っ」
息が詰まったのは信じられないけれどリヴァイも同じ様で、見たことのないくらい余裕のないその様子に胸の奥がじりじりとひりついた。
リヴァイの目線が私に戻り、一度は離れた唇が重なる。
キスを繰り返すうちに少しずつ行為も激しさを増していく。
目眩がするほどの腕の強さで抱き締められて、その激しさと愛しさでどうにかなってしまいそうだった。
気が、遠くなる。
汗ばむ身体が触れるたびにその肌の熱さにくらりとする。
人肌が気持ちいいってこういうことだったのか。
リヴァイの腕に抱かれて、その激しさで息が乱れて。
その熱い体に抱き締めらていると思うとどうしようもなく高揚した。
彼の息の上がったところなんて今まで見たことがなかった。
自分とのキスや体温の行き来でこんな彼を見られるなら、こんなに幸せなことはないと思えた。