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 サルタナ 01

訓練兵を修了して、大勢いた中から数少ない同期と調査兵団を希望した。


キース団長の後任は専らエルヴィン分隊長だという話だった。

調査兵団に新兵として配属され新しい生活が始まってすぐ、彼の噂を聞いた。




王都の地下街で有名だったというゴロツキ。

エルヴィン分隊長が是非にと連れてきた人たち。

当初は三人で調査兵団へ入団したらしいけれど、今は彼一人しか残っていない。

壁外で仲間を巨人に食べられてしまった彼が、仲間を失った後もまだここに留まる理由はなんなのか。

怒らせると怖いという彼の噂は散々聞いていたので、訓練場で初めてその姿を見たときは思い切り凝視してしまった。




「見すぎ!」と隣の同期に小突かれるくらいには見ていたんだと思う。

私の場合は度を越して見てしまっていただけだけど、その場にいた誰もが何だかんだと彼に注目していた。

その異例の経歴からか、なんだか彼の周りにいる上官達の雰囲気も普通ではない。

見下しているとも違う。
軽蔑しているとも違う気がする。


その雰囲気は到底彼を歓迎しているものではなかったけれど、それでも一目置かれているらしいことは新兵の私達にも分かった。



「……時間の無駄だな」



小さく、それでもよく通る声が訓練前の待機場に響いた。


私を含めた新兵はもちろん、恒例の長話をしていた上官も、その場にいた全員が彼に目を向ける。


その場の注目を一身に浴びて、けれど当の本人はそんなものに怖気付く気配も無い。



この人。

喋ったと思ったらいきなりそんなことを、しかもそんな口調で。

すっごい度胸…というか。
図太い神経してるんだな、と思ってしまった。


加えて睨みつけるような目付きをするものだから、見ているこちらの方がハラハラと心配になってしまった。



「長ったらしい説明など必要ないだろう。
壁外の様子をいくら口で説明したって分からねぇよ。
さっさと実技に移った方がこいつらにとっても早いはずだ」



……それは、そうなんだけど。

それは一般兵士の誰もが感じていたことだけれど。


何年も行われて来た習慣を、こうして正面から不必要だと言い切れるだけの人材が今まではいなかった。


その言い回しと、新人とは思えないような威圧感。

周りが彼を異質としてみているだけじゃない、彼自身が周りを値踏みするかのように見回している。


この人は入団の際に特別高い地位までもらったわけじゃないはずだ。
だから、立場上はまだ私たちと同じ一般兵士。


それなのに時折口を開けばその発言は的を得ていて、上官は彼に向かって常套句を吐き捨てたけれど、それ以上話を続けようとはしなかった。


新兵の立体機動訓練に顔を出すくらいには発言力があるんだろうか。

いまいち兵団内での彼の立ち位置が分からない。

だけどその言葉遣いと態度の大きさから、皆がなぜ遠巻きに彼と接するのかがなんとなく分かった気がした。


「なんか噂通り嫌な感じの人だね」


そのやり取りを見ていた同期の子がこそっと私に耳打ちする。


確かに色んな意味で強かだとは思ったけど。


嫌なひと…?



「……そう、かな」



思わずそう返すと、「いま見てたでしょ!?」と背中を叩かれた。

言動が粗野で、所謂一般常識が通じなさそうなところは分かった。

それでも彼の瞳が物事の本質を捉えていることには違いないんじゃないか。


だって現に誰かが倒れそうなほどの長話は終わっているし、誰からも文句を言われたことがなかった上官は場を振り返る機会を得たのだ。

次回もこうして短く終わってくれると良いんだけど。




だけど、あの目付きからして。

間違いなく優しい性格じゃない。
根性とか性格とか、とにかくどこか複雑に曲がっていそうだ。


ゴロツキ。
ゴロツキってどういう意味だろう。

あの人は、どっちかと言うと。


そこまで考えてから、はたと思い当たった。


猫っぽいのかもしれない。
それも根性の座った叩き上げの野良猫だ。


あのふてぶてしい感じは野良猫の親玉という感じが近い。
目付きが悪くて警戒心が強くて、自分からは誰にも寄り付いたりしない。
うっかり近付いたら鋭い爪で引っ掻かれそうな。


自分は絶対に関わり合いを持ちたくないタイプだと思った。







何年も続く調査兵団。


好き勝手出来る独立した集まりじゃなく、費用や支援も外部に頼る形のれっきとした王政治世下組織のひとつだ。

歴史があればあるだけ組織は慣例や習慣にこだわって衰退することが多く、さっきの彼のように無駄なことを無駄と認識し直し、変革していくことが大切なのかもしれない。

初めのうちこそそんな彼を目の敵にする上官たちもいたけれど、蓋を開けてみれば怒鳴り散らすだけの彼らより、リヴァイという全く新しい存在に同意する者が圧倒的に多かったのだ。



    


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