△ ナカロマ 71
その瞬間は、何度も経験してきた。
変わり果てた仲間の姿。
もう二度と動かない肢体。
人間が死ぬ、というのはあまりにも日常的で異常でもある。
どんなに後悔しても時間も、失ったものも、もう戻らない。
仲間を何度も失って、その度に何度自分の選択を悔やんで押し殺してきたか。
結果はいつも全てが終わってからでしか手に入らない。
どんなに考えた末の行動だったとしても、後から考えると間違っていなかったかどうかもわからない。
何度も、何度も諦めてきた。
…まだ。
コイツだけは、今はまだ、手の中にいる。
「―――巨人なんかに殺されるくらいなら…」
この脈を打つ暖かい身体が噛み砕かれる場面を想像してしまう。
自分の与り知らない場所で、知らないうちに巨人の餌になる、だと?
外に行ったと聞かされた後で、
全てが済んだ後に駆けつけて。
……食い散らかされたコイツを、拾うのか。
リヴァイは手に更にぐぐぐ、と力を込めた。
それを全てエマの肌に伝えるわけではなく、押し潰そうとする力とそれを制止する力が両方働いているようだった。
強すぎる自分の力を持て余しているのか、力を抑えるように手の平が小刻みに震える。
「……俺が、殺してやる」
そう言ったリヴァイの瞳は暗く底光りしていた。
思わず目を見張るけど、彼が冗談で言うわけない。
冷たい目を見つめ返しながら、彼の言葉を何度も反芻する。
リヴァイに、殺される?
この手に思い切り喉を潰されたら、今この瞬間にも間違いなく死ぬんだろう。
それって…痛いのかな。
不思議と、彼の言葉を聞いても心は落ち着いていた。
獲物のように睨まれて。
殺してやると凄まれているのに。
リヴァイはどうなっても私を悪いようにはしない。
その安心感が確実に勝っていた。
いま私がここで死んでも、きっとその体も丁寧に運んでくれる。
そんな気がした。
あのとき。
森で、助けてくれた時。
誰に触られても嫌だと思ってたけど、リヴァイだと分かった瞬間にそんな気持ちは不思議なくらい綺麗に溶けてなくなっていた。
触れてほしい。
体にも、気持ちにも、もっと。
もっと近くで触れて見たい、と思う。
エルヴィンにも、他の誰にもそんなこと思わないのに。
…リヴァイだけ。
どこまでいっても私の特別は、リヴァイだけ。
それはきっと、いつまで経っても変わらない。
そんなの最初から分かってる。
リヴァイの手にかかって、死ぬ?
もし、そうしたら。
他の誰よりも、私のこと覚えててくれる?
どんな形でもいいから、リヴァイの心の中で私のことを残しておいてくれる?
彼の手にかかって死ぬことがなんだか特別なことに思えた私は、もう救いようがない。
自分でも最低だと思うけど。
そうしたらきっと彼はいつまでも私のことを忘れないでいてくれるんだろうと、頭のどこかで分かっていた。
…………リヴァイになら、
なにされても、
怖くない。
「……いいよ…」