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 ナカロマ 60

残された私は恐る恐るリヴァイの顔を見上げる。

確かに。
確かに私がここまで乗ってきた馬を見つけられた方がいい。

そうに決まってるけど。
なんでわざわざペトラさんを遠ざけるようなことするの?

……なんで?
なんで、ペトラさんの前でも私に対して態度を変えないの?
私なんか恋愛対象に入ってないから?

ペトラさんが、私との関係なんかを心配なんてしないから…?


私の視線に気づいていないわけないのにリヴァイはもう一度だけ木の上に上がって残りの荷物を回収し、もう一頭の馬の背に括り付けた。

ばさりとケープを一度翻すように払うと、彼は私の乗る馬へと歩み寄って難なく馬上へ、私の後ろへと跨った。


すぐ後ろに落ち着いた彼の気配に今度は胸がざわついて、でも非難なんて出来ずに目を逸らすことしかできない。

…リヴァイが何考えてるか全く分からない。



「あとは誰も見てない」

「……!」

「…無理して隠すな」



頭を掴まれて引かれるままリヴァイの肩にとん、ともたれかかってしまう。


「辛いんだろう。
多少は揺れるが…目を閉じていろ」


着いたら起こしてやるから、と呟く彼の顔を、今度こそ見上げることが出来なくなった。
彼の手と足が馬を促して、もう一頭を括り付けた手綱で連れたままゆっくりと歩を進めていく。

そのまま馬の背に揺られるけど、自分で馬を操作しなくてもいいのでかなり体の負担が減ったのは確かだった。
加えて、リヴァイは何も言わないけど明らかに私の体にあまり振動が伝わらないようにしてくれている。
バランスを崩す前に彼の腕が伸びて、有無を言わせず抱き寄せてくれるその手に体を預けることしか出来ずにいた。


脳裏に浮かぶのは、エルヴィンの家でのあの夜のこと。

泣き顔を見られたくなくて隠してるのに、彼はそれを分かってて暴き出す。


…弱くて情けないところ隠したいの、分かってるくせに。
現にペトラさんには分からないようにしてくれたのに。
なんでリヴァイ自身は気付かないふりしてくれないの?


なんで放っておいてくれないの?
…なんで、優しくするの。

今までこんな事、気付きもしなかった。

自分に与えられるものだけを能天気に受け取っていただけだって今更ながら気付いた。
たまに彼に触れられるだけで呑気に喜んでた。
自分はもしかしたら特別なんじゃないかって思えたから。


あの夜は彼の優しさが死ぬほど嬉しかったはずなのに、今の私はもう、この手が私だけのものじゃないって知ってしまっている。

…優しくしないでほしい。

独り占め出来ないなら、こんな優しい彼知りたくなかった。



  


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