△ ナカロマ 50
小さい集落をふらふらと抜けて、考えもなしに最後の家屋を曲がってぎくりとした。
「−−−!!!」
反射的にブレードを引き抜く。
思わず声を上げそうな程驚いた割に、体は冷静に動いていた。
集落を抜けると平地が広がっていて、そう遠くない場所にちらほらと背の高い木が立っている。
その先には、一本の樹にもたれるように座っている巨人の姿。
髪は長く顔だけ見ると女性のようなのに、体は男性のように筋肉質で女性的な特徴はない。
その目は開かれたまま、呼吸音だけが響く。
動き出す気配はない。
こちらに目も向けない。
身構えた姿勢からゆっくりと手を下ろして、まだばくばくとうるさい心臓を服の上から抑えた。
寝てる…?
…そうだ、巨人は夜は動けなくなるんだっけ。
操作装置を握ったままの自分の手を見つめると、思い出したかの様に今更小さく震えだした。
一人ってなんて心細いんだろう。
怖いよ、……リヴァイ。
その時、物音が聞こえて顔を上げると、その座る巨人の向こうに木に繋がれたままになっている一匹の馬が見えた。
まだ震えたままの手のひらを、ぎゅっと握りしめる。
一度は取り出した立体起動をしっかりとホルダーに仕舞い直した。
まだ、私の死ぬ場所はここじゃないみたい。
静かに歩み寄ると、馬はじっと私のその様子を見ていた。
真黒い毛のその馬は毛並みもとても綺麗で、持ち主に可愛がられていたことが伺える。
様子も落ち着いていて、怖い思いをしたわけではなさそうだ。
首をゆっくり撫でてやると静かに顔を寄せてきたので自然と笑みが溢れる。
その背に乗ることにも苦労したけれど、暗闇の中を一人で歩かなくていいことに心からほっとした。
馬の首にもたれるようにして、ゆっくりと歩き出す。
その頃には空は完全に漆黒へと変わっていて、思わず星を見上げた。
なんだか星の数も多い気がする。
崩れた家屋からも見えていたけど、遮るものが何もない夜空に、馬に揺られながらしばらく魅入ってしまった。
死んだ人が星になって空から見守ってくれるっていうのは、誰から聞いた話だっただろう。
私が死んで星になったら、こうしてまた違う誰かが見上げてくれるんだろうか。
乾いた冷たい風が吹いて、私のケープも、倒れた皆のケープも同じように揺らしていく。
壁外に出ればまさに生きるか死ぬか。
風雨を凌ぐ壁も屋根も、守ってくれる腕もない。
体温が失われた兵士の遺体と、数えきれないほどの星が光る夜空。
こんな光景がこの世にあるなんて私は知らなかった。
・・・自分一人だけ生き残って。
リヴァイは、こんな状況でいつも何を思っていたんだろう。
無力な私と違って、彼の場合は自分で救える命があったはずだと自分を責めてしまうんだろうか。